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瀬戸内寂聴さん逝く 社会の駆け込み寺として

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 多くの老若男女が、その言葉や行動に勇気づけられ、救われたのではないだろうか。

 作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが亡くなった。最晩年まで新聞や雑誌の連載を抱え、驚異的なエネルギーで99年の生涯を駆け抜けた。

 文学界での地位を確固たるものにしたのは、社会規範や因習からの自由や自立を求め、権力と闘った女性たちの評伝小説だった。

 愛と性を大胆に描いた「花芯」が文壇で批判され、不遇の時を過ごした。男性中心の社会に、風穴を開けたいという思いもあったに違いない。

 フェミニズム文学の先駆者である田村俊子や、岡本かの子、愛と革命に生きた伊藤野枝、管野須賀子らを活写した。それらの作品は、自身の恋多き自由奔放な生き方に重なった。窮屈な社会に生きる女性たちへのエールでもあったのだろう。

 51歳で出家し、僧侶となってからの後半生は、人に寄り添うことに情熱を傾けた。

 人々に直接語りかける講演をライフワークにした。京都・嵯峨野に結んだ寂庵などでの法話は、多くの人を引きつけた。

 「他人に流されず、自分の信念に沿ってしたいことをして生きていれば、人生が自然に開ける」

 自らの業を見つめてきた人間味のある言葉だけに、力を持った。悩み、迷う人々のよりどころであり、駆け込み寺となった。

 性被害や自殺未遂を体験した少女たちの居場所を作る「若草プロジェクト」を始めたのは、90歳を超えてからだ。

 理不尽なことがまかり通る社会のありようにも異議を唱えた。

 湾岸戦争に断食で抗議した。安倍晋三政権が進めた安保法制に反対する集会では、自らマイクを握った。戦争を知る世代が次に伝えなければという信念が、小さな体を動かした。

 東日本大震災の被災地を訪れ、

希望を失わないよう住民を励ました。原発の再稼働反対を訴えるハンガーストライキにも参加した。

 人々が愛し合い、誰もが生きやすい社会になることを願い続けた。コロナ禍で格差と分断が広がる今こそ、その思いの実現が求められている。何ができるのか、一人一人が考えたい。

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