冷戦終結後の融和は過去に ロシアと欧米は衝突の道を進むのか
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「銃撃や砲撃は国境の方向に向けられていない。隣国への脅威や挑発行為は起こりえない」
ポーランド国境から約20キロ離れたロシア西部カリーニングラード州の演習場。9月11日にロシア軍の大規模演習「ザーパド2021」の一部を指揮したザバドスキー大佐は報道陣の取材にそう強調した。ポーランドの記者からは何度も「どの国を想定した演習か」と詰め寄られたが、「我が国に脅威を与える人々」としか答えず、「ソ連時代からこの手の大規模演習は続けられてきた。我々は何も隠してはいない」と訴えた。
欧州国境付近で行われた今回の大規模演習について北大西洋条約機構(NATO)は「ロシアは透明性を示すべきだ」(ストルテンベルグ事務総長)と懸念を表明してきた。外交筋によると、通常は大規模演習の際、モスクワにいる各国の駐在武官が視察に招待されるが、今回はNATO加盟国の武官だけが招待されず、「あからさまなNATO外し」との声が出たという。
1989年の冷戦終結と91年のソ連崩壊により、ロシアと欧米諸国の間では東西融和への期待が高まった。2002年にNATO加盟国とロシアの協議機関「NATOロシア理事会」も設立されるなど、信頼醸成や対話の枠組みが作られ、ロシアはNATOの準加盟国という扱いを受けた。
相次いだ「欧米の裏切り」
だが、ロシアはこの前後に起きた出来事を「欧米の裏切り」と捉えてきた。
ソ連と軍事同盟を組んでいた中東欧諸国は99年以降、相次いでNATOに加盟。90年の東西ドイツ統一の交渉の際に西側諸国が口頭で「NATOは東方に拡大しない」という約束をしたと訴えるロシアは「緩衝国家」を失うことに反発を強めた。03~05年に旧ソ連諸国で民主化を求める政変が相次いだことも、欧米が「民主化」を口実に体制転換を狙っているという疑いを生んだ。
自身の勢力圏とみなす旧ソ連のジョージアやウクライナでもNATO加盟の動きが進むと、ロシアはついに堪忍袋の緒が切れたかのような実力行使に踏み切る。08年にジョージアとの軍事衝突が起こり、14年にウクライナ南部クリミアを一方的に編入。この年から親露派武装勢力とウクライナ軍の紛争にも介入し続けている。
「欧米諸国はNATOを拡大しないという約束を守らなかった。NATOの軍事インフラは我々の国境に近づいている。なぜこれに反応してはいけないのか」。プーチン大統領は20年12月の記者会見で改めて恨み節を語った。
一方で国際社会は、ウクライナとの国境線を強制変更したことは冷戦後の国際秩序への挑戦と受け止めた。16年の米大統領選にロシアが介入した疑惑が指摘されるなど、欧米諸国も対露感情を著しく悪化させている。今年10月にはNATOがスパイ容疑でロシア代表部の外交官8人を追放したのに対し、ロシアもNATOの代表部を閉鎖。再び関係を改善する機運はほぼ失われている。
愛国心を育む若者たち
カリーニングラード州の演習場では、おそろいの赤いベレー帽とポロシャツをまとった少年少女の一団が演習の様子を見守っていた。その一人のベロニカさん(16)は「軍の教育機関に進学し、軍医として祖国を守るのが夢です」と目を輝かせた。
ベロニカさんらは8~18歳の若者を対象とした愛国運動組織「ユナルミヤ」(若き軍隊)の地元メンバー。ショイグ国防相の主導で16年に設立された組織で、ボーイスカウトのような活動をしながら、軍事の基礎やリーダーとしての資質を学ぶ。現在は全国で86万人以上の若者が所属している。
演習場でユナルミヤのメンバーを引率した地元支部のゴイコロフ支部長は「演習を見ることで、戦争とは何かという理解が深まる。いざという時に戦う覚悟ができているかどうかが大事だ」と語る。
欧米との軍事的対立が深まる中、プーチン氏は「ロシアの主権は偽りのない愛国心に支えられている」として、愛国主義を重視し、国民を団結させるイデオロギーに位置づける。中でも将来のロシア軍を担う…
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