「起業しか勝たん」東大発スタートアップ 日本再活性化へ希望の灯
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日本で最難関と言われる東京大学。卒業生は大企業や国家公務員を目指すのが王道だったが、最近では起業を目指す人たちも増えてきたようだ。活力を失った日本企業に魅力を感じず、自らの力で事業を起こすという選択。世界的な企業となった米国のグーグルやフェイスブック(現メタ)も、もともとは大学生が作ったスタートアップ企業だった。東大から世界を驚かせる企業は生まれるのか。若き起業家の挑戦を追った。【松岡大地/経済部】
「仲間や自分の才能を証明したい」
パソコンの画面に、建物の内部を再現した3Dの映像が浮かび上がる。建物に設置したセンサーなどで集めた情報をAI(人工知能)で解析し、現実の世界をほぼリアルタイムにデジタル空間で再現する「デジタルツイン」と呼ばれる技術だ。行き来する人々の顔の分析を通じて、性別や年齢も推測する。
開発を進めているのは、今年2月に起業したばかりのAI開発スタートアップ企業「燈(あかり)」。プログラミングが得意な東大生ら17人が所属する。平均年齢は21・5歳だ。
例えば、商業施設では、どんな属性の消費者がどう移動しているかが分かれば、より効率的な店舗出店や商品開発にも役立つ。このシステムはデベロッパーや建築会社への販売を目指しており、将来は人の目の動きを追跡するシステムの開発も視野に入れているという。
最高経営責任者(CEO)を務めるのは、東大2年の野呂侑希さん(22)。物心ついた2000年代には、既に日本の経済は低迷していた。一方で、米国のフェイスブックやアップルを率いる個性あふれる起業家を見て「米国にはすごい起業家がいるんだ」と憧れを抱いた。高校1年生の時に、IT大手ヤフーのプログラミングコンテストに出場して入賞。起業への興味が膨らんだ。
大学入学後にまず起業したのは、人材ビジネスだった。就職活動をする大学生を企業の合同説明会に集めるウェブ広告の運用を行い、学生を集められれば企業から対価が支払われる。収益も順調に上げていたが「日本の課題解決にそこまで役立っていないのではないかという思いが拭えなかった」と、代表を退いた。
「本当に自分は起業をしたかったのだろうか」。心が晴れない中、一時は外資系コンサルタント会社への就職も考えたが、日本のAI研究の第一人者、松尾豊教授との出会いが転機になった。「起業に興味がある」と相談すると、企業との共同研究を紹介された。AIの技術を学びながらシステムを作り、大手企業に売り込む経験を重ねるうちに、「多くの人を単純作業から解放したい」とAI企業を起こそうと決めた。
社名の「…
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