ネット中傷「君にもつながる問題として」 開成中・思考の授業

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 この秋、全国屈指の進学校、開成中学(東京都荒川区)で、「ネット上の誹謗(ひぼう)中傷」を巡ってある授業が行われた。教科は国語・現代文。ネット中傷にさらされた芸人スマイリーキクチさんの本「突然、僕は殺人犯にされた」を課題図書に、リアルタイムで起きるニュースにも触れつつ、中傷に走る人間の心に迫る授業だ。単にルールやノウハウを学ぶのでなく、徹底的に思考するのが特徴。「正義感」の危険、人間の本能的欲求、SNSというツールの特性とは――。全6回の授業を報告しながら、誹謗中傷やいじめが絶えないネット社会で、教育現場ができることを考えたい(次回は23日掲載)。【宇多川はるか/デジタル報道センター】

「今の時代に切り込みたい」

 授業を担当する神田邦彦先生(58)が、この本を題材にネット中傷に取り組むのは約10年ぶり。初めて扱った2011~12年度、子どものゲーム依存やネット依存への問題意識が高まっていた。書籍が出版されたタイミングも重なり、課題図書に選んだという。

 私(記者)が当時の授業の存在を知ったのは昨年の夏。SNSによる誹謗中傷について取材する中でスマイリーキクチさんと出会い、開成中での取り組みを教えてもらって興味を持った。神田先生を訪ねて当時の授業の記録をたどらせてもらい、記事で紹介した。

 それから約1年がたった今夏、ネット中傷問題の取材を続けていると神田先生に伝えた。メールのやり取りの中で、神田先生が2学期にはまたこの問題について、「今の時代に切り込むような授業プラン」を練っていることが分かった。私はすぐに「授業の様子を取材させてほしい」とお願いした。「社会における人間の表現活動について思考を巡らし、言葉に対する感覚を研ぎ澄ますこと」。これが神田先生の国語の授業で一貫しているテーマの一つだ。SNS上の誹謗中傷という現代的な問題に即した授業展開を見たかったし、デジタル時代を生きる生徒たちの思考も知りたかった。取材の趣旨に理解を示した神田先生は、学校の了解を得て、生徒や保護者に説明した上で、授業の取材を認めてくれた。授業は中学2年を対象に、9月下旬~10月中旬にかけて計6回行う計画だった。

「法整備されたら安心?」―1回目

 9月22日。さて、いよいよ初回の授業スタートだ。開成は中高一貫の男子校。私は学校最寄り駅のJR西日暮里駅から、中高生の列に交ざって登校し、教室の最後列の席に座った。ワイシャツ姿の男子生徒たちが教室を埋める。

 「ツイッターやってる人いる?」。授業冒頭、神田先生がよく通る明るい声で生徒たちに呼び掛けると、パラパラと手が挙がった。「僕のアカウントをフォローしてくれてる人もいるよね」と神田先生。今や生徒も教師もSNSを使うのだ。この本を初めて課題図書にした約10年前と比べ、今では子どもたちにとってSNSは格段に身近なものになっている。

 本は1999年から約10年間にわたり、スマイリーキクチさんが姿の見えない中傷犯と闘い、画期的なネット犯罪立件に至る過程を、揺れ動く自身の心情と共につづる。

 授業開始前、神田先生は本の率直な感想を生徒たちに書かせていた。授業の導入としてまず紹介されたのは、この感想の一部。教室前方のスクリーンには「現在は、インターネットに関する法律が厳しくなっていると知ったので、安心した」「ネット犯罪を取り締まるための技術が積極的に開発されている現在からしたら、考えられないことだ」といった内容の感想がいくつか挙げられた。

 「君たちは、このことについてどう思う?」。神田先生が問いかけると、すぐに声があがった。「僕もそう思います!」。別の声も響いた。「今でも(被害は)ありませんか?」

 ここで神田先生が矢継ぎ早に質問する。「本当に法整備はととのったの? 何をもって大丈夫というの? 法整備されたら安心なの?」

 考え込む生徒たちに、神田先生が示したのは一枚の新聞紙面だった。授業の1週間前の新聞で、ネット中傷の厳罰化議論を伝える記事(※1)と、小学生に配布されたタブレットに起因するいじめ問題(※2…

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