正解のない授業 「表現の自由」が問うもの 先生からのメッセージ

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 Democratic experience requires that individuals should be faced with the challenge (   )freedom.<民主主義的な場では、個人は、自由(   )の挑戦に、立ち向かわなければならない>。カッコ内に入る助詞を問う問題だ。ある英語参考書の一文を引用して、神田邦彦先生(58)は生徒たちに問うた。「『自由への挑戦』だから、『for』?」。生徒からそんな声も上がったが、答えは違う。これまでネットの特性、人間の欲求、正義と学んできた。最後のテーマとなる「表現の自由」から、この例題の意味をひもときたい。【宇多川はるか/デジタル報道センター】

何を言ってもいいの?―5回目

 授業の課題図書であるスマイリーキクチさんの本「突然、僕は殺人犯にされた」。ネット上の掲示板に書き込まれた中傷を削除するよう、掲示板の管理人に求めた経緯が記されている。スマイリーキクチさんは必死の思いで「殺人関与」という根も葉もないデマを消すよう求めるが、管理人からは「事実無根を証明しなければ削除しない」との返答があったという。10月8日の5回目の授業は、まずこの言葉から。神田先生が「どう思う?」と生徒たちに投げかけると、次々に声が上がった。

 「『悪魔の証明』という言葉があるけれど、証明なんてできない」

 「管理人の独裁にならないように、このルールは必要なんじゃないか」

 「中傷かどうか分からない微妙なラインのものを消しちゃったら、自由な書き込みはできなくなる」

 生徒たちの意見は、被害側にも加害側にも偏らず、率直だった。「難しいね。難しい……」。神田先生はひたすら「難しい」と繰り返しながら、一枚の紙を配った。「表現の自由」を巡る国内外の四つの文章が書かれている。

 <日本国憲法第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する>

 <「真理と虚偽とを組み打ちさせよ。自由な公開の勝負で真理が負けたためしを誰が知るか」イングランドの詩人、ジョン・ミルトン(1644年)>

 <「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」フランスの哲学者、ヴォルテール>

 <「すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見を持つ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む」パリの国連総会で採択された世界人権宣言第19条(1948年)>

 「表現の自由」は当たり前にあるものではなく、世界の人々が獲得してきた権利だ。歴史を振り返りながら、私(記者)も思いをはせる……とその時、「じゃあ何でも言っていいの?」という神田先生の声が響く。

 「脅迫とかはダメでは」とある生徒。神田先生が応える。「なるほど。犯罪になるものはダメだよね」

 ほかに、なかなか生徒たちの声は上がらない。

 「がんばれ。まとめてみよう」

 神田先生が呼び掛けると、手が挙がった。

 「恣意(しい)的に他者の尊厳をおとしめるもの」

 モ…

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