ネット時代に紙の本を売る 仕掛け人が語る宣伝・販売の秘密

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文芸春秋プロモーション部の大矢靖之さん=2021年11月4日午後3時15分、鈴木英生撮影
文芸春秋プロモーション部の大矢靖之さん=2021年11月4日午後3時15分、鈴木英生撮影

 「インターネットを使って、その外に広がる未知の世界へお客を誘いたい」――。活字離れが叫ばれて久しい。実際、この20年で書店の数はほぼ半減した。他方、電子出版が好調で「紙」と「電子」をあわせた出版物の販売額は前年より増加している。デジタルを駆使して紙の本を売るプロ、文芸春秋プロモーション部の大矢靖之さんに、デジタルにない紙の本の魅力や、どうやってネット発のベストセラーは生まれるのか聞いた。【聞き手・鈴木英生】

「活字離れ」実は幻か?

 ――ネットの影響もあって「活字離れ」が叫ばれています。

 ◆毎日新聞社などの読書世論調査によると、2005年ごろまで若い世代の読書率は下がっていません。小中学生は、近年むしろ上がっています。確かに、高校生や大学生では下がっていますが、それでも、スマートフォンなどでネットの記事を閲読する人は多く、動画SNS(ネット交流サービス)で流れる曲名などの文字情報も当然読まれている。文字や文章を読む文化自体は盛んなままですよね。「活字離れ」は、1970年代後半からずっとマスメディアで言われており、現状を適切に説明するには、新しい概念が必要なのかもしれません。

 そのうえで、スマホ世代のニーズに即して、本の提供の仕方を考えないといけないとは思います。今の40代以下は、特に趣味や娯楽の情報収集はほとんどネットで、紙の本にはあまり頼りません。特に20代は、多様な方法で情報に接しています。居酒屋で複数人でネット動画を見て盛り上がったり、喫茶店でスマホやパソコンを併用して複数の動画を同時に見ていたり。私たち年長世代とは、情報の摂取の仕方に決定的な違いが出てきています。

紙の本の存在感はデジタルで再現不能

 ――そんな世代に対して、紙の本にどんな「売り」があると思われますか?

 ◆ネットは、使う人の検索履歴などの個人情報や位置情報などを利用したアルゴリズムによる検索結果が出ます。とても便利ですが、自分と似た価値観の情報ばかりが出てきて、関心の外にある世界が見えにくくなりがちです。

 一方で、書店はお薦めの本を目立つ棚に並べるなど、来店者に思いがけない世界との出合いを提供できます。紙の本は、電源もいらず、書き込みをしたりページの端を折ったりが自由で優れたメディアです。プロが編集した本の信頼性は、若い世代からも失われていません。装丁や帯にも先人の知恵が集大成されています。

 それに、紙の本の物質としての存在感は、電子では再現できません。友人の本棚を見るだけで、その人の思考が想像できたり、以前読んだ本を手に取った瞬間に昔の記憶がありありとよみがえったり…

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