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ノーベル賞

「世界で最も権威のある賞」といわれるノーベル賞。今年はどんな研究・活動に贈られるでしょうか。

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真鍋氏のノーベル物理学賞で注目 シミュレーション研究の今

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米国に渡った真鍋淑郎氏が気候モデルの研究に使ったIBM社初のスーパーコンピューター「IBM7030」=日本IBM提供
米国に渡った真鍋淑郎氏が気候モデルの研究に使ったIBM社初のスーパーコンピューター「IBM7030」=日本IBM提供

 今年のノーベル賞の授賞式が10日に迫った。物理学賞は真鍋淑郎(しゅくろう)・米プリンストン大上席気象研究員に贈られる。気象を含む地球科学分野での受賞は初めてだが、「シミュレーション」を用いた研究の受賞という点でも注目を集めている。関係者は「シミュレーション研究の社会への役割が大きくなるきっかけになるだろう」と話す。新型コロナウイルスの感染動向予測でも期待されている。

スパコンで発展した「第3の科学」

 「気候シミュレーションが新しい『真の科学』として認められたのは大きい」。世界一の計算速度を誇るスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」を擁する理化学研究所計算科学研究センター(神戸市)の松岡聡センター長はこう語る。

 シミュレーションは科学の伝統的な手法である「理論」や「実験」に続く「第3の科学」と称され、実世界の法則をそのままコンピューター上で再現し、仮想的に一部の条件を変えて、全体の状況がどうなるか確かめる。▽実験に多くの資源が必要な場合▽対象が大きすぎたり小さすぎたりして操作が難しい場合▽未来を予測する場合――などに効果的な手法だ。コンピューターの出現と同時に発展が始まり、スパコンの性能向上で急速に普及し、科学の新たな可能性を切り開いた。富岳でも気象や天文、創薬、防災などの分野で研究が進む。

 21世紀に入り、ノーベル賞でもシミュレーション研究を用いた受賞例が出ている。2013年の化学賞の研究分野は「分子動力学法」。分子を構成する原子のつながりをコンピューター上で再現することで、分子がどのような振る舞いをするのか、予測を可能にした。選考委員会は「昔はプラスチックの球と棒を使って分子モデルを作成していたが、現在はコンピューターで行われている。シミュレーションは不可欠だ」と評した。物理学賞でも、ヒッグス粒子の存在を証明(13年)するための検証に用いられたほか、重力波の検出(17年)などの大きな成果に貢献した。中でも11年に宇宙膨張の研究で受賞した米物理学者のソール・パールマター氏はスパコンのヘビーユーザーで知られ、名前を冠したスパコンが今春米国で稼働した。

 真鍋氏が1958年に米国に渡った最大の理由は、スパコンが自由に使えることだった。当時はスパコンの黎明(れいめい)期。IBM社初のスパコン「IBM7030」が「使い放題だった」(真鍋氏)と言い、理論を固めて新たなモデルを構築し、それを単純なものから複雑なものに発展させて、地球温暖化の長期予測を可能にした。

 松岡氏は「遠い未来に起こると想定され、現実世界では検証のしようがない現象をシミュレーションで一時的に確かめた。そういう意味では初めてのノーベル賞受賞ではないか」と話す。「特に21世紀に入り、スパコンの性能が上がり、これまで理論があっても検証が不可能だと思われるような事象について計算できるようになってきた」とし、「富岳を使った研究からノーベル賞級の成果が出ることを期待したい」と願いを込める。

感染症分野は「はじめの一歩」

 気象分野がシミュレーション研究で大きく進歩した一方、まだまだ試行錯誤の段階にあるジャンルもある。その一つが、新型コロナウイルスに代…

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