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いくら規模を膨らませても、新型コロナウイルス禍に苦しむ国民に届かなければ空回りに終わる。
岸田文雄首相の下で初めての経済対策がまとまった。財政支出は過去最大の55兆円強に上る。
景気はまだ厳しい。7~9月も消費が低迷し、再びマイナス成長に陥った。飲食店などの非正規労働者が職を失い、格差も深刻だ。
昨年も巨額の対策を次々と打ち出し、30兆円も使い残した。不要不急の公共事業などが多かったことに加え、困窮した人への支援が遅れたためだ。
首相は「成長と分配の好循環を生み出す」と強調する。だが、成長分野と位置づける事業には効果の疑わしいものが目立つ。
典型は、先端技術の研究を支援するという10兆円規模の大学ファンドの創設である。官製ファンドは使途のチェックが甘いとされ、無駄の温床になりかねない。
地方のデジタル化を進める交付金も盛り込んだ。だが従来も似たような事業を行っていて、看板の掛け替えにとどまる恐れがある。
公共事業には今回も4兆円程度を投じる。防災などに充てるというが、コロナ下でどれほどの緊急性があるのか、はっきりしない。
旅行支援策「GoToトラベル」の再開方針を示したが、昨年は感染が拡大していたのに経済を優先して停止が遅れた。
景気刺激策に偏らず、感染の抑制や医療体制の充実に力を注ぎ、国民が安心して消費できる環境を整えることが重要だ。
分配もちぐはぐだ。10万円相当の給付は、共働きの子育て家庭なら、世帯の年収が1800万円を超えていても受け取れる計算だ。一方、子どもがいなければ、年収100万円台でも支援が受けられない場合がある。生活の苦しい人に行き渡るようにするのが筋だ。
首相は衆院選前から「数十兆円の対策」をアピールしてきた。規模優先で策定した結果、コロナ禍と関係が乏しい事業が相次いで紛れ込んだのではないか。
財源確保のため国債を発行すると、1200兆円規模の借金がさらに膨み、国民の不安も強まる。
首相は富裕層が多く持つ株式の売却益などへの課税強化を棚上げした。財源を置き去りにしたまま大盤振る舞いするのは無責任だ。