「昆虫葬」が静かなブーム 都心のマンション住民増加も一因に
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昆虫もきちんと供養したい。そんな思いに応える「昆虫葬」が静かに広がっている。サービスを提供する企業に申し込みが急増しているのだ。その背景には何があるのだろうか。【中村清雅】
「ごみと一緒は抵抗」
「娘の教育の一環でカブトムシを飼っていたので、死んだら生ごみと一緒に捨てるのは抵抗があった」

昆虫葬をした兵庫県西宮市の自営業、福井貴行さん(45)は語る。小学2年の長女が約3カ月間、育てていた雌のカブトムシが9月に死んだ。屋外の公園に埋めることも考えたが、死骸に付いた病原菌が地域の生態系に悪影響を及ぼすことを懸念した。可燃ごみとして捨てるか悩んでいた際、インターネットで知った昆虫葬に申し込んだ。「カブトムシが死んで娘も悲しんでいたが、死骸も丁寧に扱ってくれたので、安心した様子だった」と話す。
2019年から昆虫葬のサービスを提供している「愛ペットグループ」では、19年は申込件数が10件ほどだったが、20年は約40件に増加。21年は10月末時点で約100件と年々増えている。昆虫のほとんどはカブトムシかクワガタで、幼児や小学生が育てたものだという。
昆虫葬の流れはこうだ。利用者は死んだ昆虫を持ち込むか、乾燥剤やクッション材が入った専用キットで郵送する。昆虫はその後、兵庫県尼崎市にある専用墓地「昆虫天国」に埋葬され、僧侶が月に1回、法要を行う。燃やすと骨が残らないため、火葬はしないそうだ。運び込まれた昆虫には「小さな体で、うちに来てくれてありがとう」「天国に行ってね。絶対に忘れないよ」といったメッセージが添えられていたこともあった。
命に対する教育効果も

愛ペットグループを運営する「アビーコム」(尼崎市)がペット葬祭業を始めたのは03年のこと。他社との差別化を図るため、4年ほど前から犬や猫だけでなく、ハムスターやインコ、ウサギといった小動物の葬儀にも力を入れ始めた。さらに新しい試みとして始めたのが昆虫葬だ。教育効果も狙った。ほとんどのカブトムシやクワガタの成虫は初夏に購入され、秋に死ぬ。きちんと供養することで、子どもたちに命を大切にする心を育んでもらおうと考えた。
同社の中田忍取締役(48)は「昆虫葬への反響は予想以上。子どもたちは飼っている昆虫をとても大切にしている」と語る。昆虫葬の利用者が増えている背景として、都会のマンションに暮らす人が多くなったことを挙げ、「犬や猫ではなく小動物や爬虫(はちゅう)類、さらには昆虫を飼う人が増えたのでは。申し込む保護者も子どもに命の大切さを伝えたいと思っている。供養を経験すれば、将来に別のペットを飼った時も大切に育ててくれるのでは」としている。
思想家の内田樹さんは「身近な生物の死を悼むというのは自然な感情。最近は子どもを葬儀や法事に連れて行かない親もおり、作為的に『人間の死』から遠ざけられている。昆虫葬は子どもが人間の死を悼むことを『禁じられた儀礼』にしてしまった社会に対する、ある種の抵抗なのではないか」と語る。
愛ペットグループでは、昆虫葬を持ち込みなら1匹3300円で受け付ける。郵送なら専用キットと送料を合わせて4950円から。ヘラクレスオオカブトなどの大型昆虫に対応するキットもある。問い合わせは「愛ペットセレモニー尼崎」(0120・24・8494)へ。