デジタルの限界、文学の意味 西垣通さんと平野啓一郎さん 特別対談

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デジタル社会で生きる人間について語り合う、作家の平野啓一郎さん(右)と東大名誉教授の西垣通さん=東京都千代田区で2021年11月10日、藤井太郎撮影
デジタル社会で生きる人間について語り合う、作家の平野啓一郎さん(右)と東大名誉教授の西垣通さん=東京都千代田区で2021年11月10日、藤井太郎撮影

 毎日新聞夕刊文化面で寄稿「科学技術と人間」を連載中の情報学者、西垣通さん。今回は、長編小説「本心」(文芸春秋)で近未来の日本を描いた作家の平野啓一郎さんをゲストに、特別対談「デジタル社会はどこへ向かうのか」を行った。急速なデジタル社会化が進む今、科学技術はどのような課題を抱えているのか。背景にある思想やコロナ禍、教育問題など、幅広く語り合ってもらった。【構成・大井浩一、写真・藤井太郎】

平野氏「AIは未来を学習できない」

 西垣 平野さんの「本心」では、突然亡くなった母親のAI(人工知能)ロボット「VF(バーチャルフィギュア)」を、主人公の29歳の男性が注文して作ります。彼自身も仮想空間で他人のアバター(身代わり)を務める仕事をしていて、仮想と現実が重なる近未来がリアルに描かれます。母親のVFと話をしているうちに、だんだん人間的な感情を主人公が抱くようになる。ロボットのほうは実は何も理解していないが、デジタル空間のイメージによって人間の記憶が再編成され、客観的現実も変化していく。そこが面白かった。

 平野 故人をAIで再現する設定を通して、さまざまな問題が同時に考えられると思いました。一つは人間の同一性の問題です。AIは過去を学習することはできるが、未来は学習できない。母親の過去を、メールやソーシャルメ…

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