米新駐日大使のエマニュエル氏 すご腕の異名と素顔 専門家が明かす

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10月に上院外交委員会の公聴会に出席したラーム・エマニュエル氏=2021年10月20日、秋山信一撮影
10月に上院外交委員会の公聴会に出席したラーム・エマニュエル氏=2021年10月20日、秋山信一撮影

 米上院本会議はラーム・エマニュエル前シカゴ市長(62)を次期駐日大使として承認した。新たな駐日大使に求められる役割、今回の指名の背景やエマニュエル氏の人柄などについて、北海道大大学院の渡辺将人准教授が寄稿した。

米政権「日本重視」の表れ

北海道大大学院・渡辺准教授

 バイデン大統領によるエマニュエル氏の駐日大使指名は、日本重視の表れだと考えてよい。米国の大使はかねがね四つの特徴に分けられる。一つ目は、大使の大統領へのアクセス。二つ目は議会内や党内での発言力。三つ目はビジネス界や非政界とのパイプで、四つ目は赴任する国の知識や現地への浸透度だ。

 過去の駐日大使は、ライシャワー大使のような日本専門家から、フォーリー大使のような議会重鎮、シーファー大使のような大統領の友人にして実業家もいた。しかし、最も重要なのは大統領に直接電話をかけられるアクセスである。そして大統領が耳を傾けるだけの政治経験があり、政界以外にアイデアを実現させる人脈があるとなお強い。

 ケネディ大使はケネディ家の威光がすさまじかったが、オバマ大統領の元同僚や友人でもなければ、政治家でもなかった。エマニュエル氏は、民主党では桁外れの政治力を持っている人物だ。1番目から3番目までの特徴をそろえている。欠けているのは4番目だけだが、日本についての余計な先入観が無いともいえる。インプットのチャンスと見るかは考え方次第だろう。

クリントン氏初当選に大きく貢献

 1959年生まれのエマニュエル氏はシカゴの出身。学生時代から地元イリノイ州選出のポール・サイモン上院議員の選挙運動に参加するなど典型的な政治好きの青年だった。

 米国の政治スタッフは政策系と選挙運動系に分かれるが、選挙運動系の中でも専門が細かく違う。後者だったエマニュエル氏が実力を発揮した専門は「ファンドレイジング」と呼ばれる分野だった。候補者への献金を募る資金集めのことで、ビジネス界に奥深く食い込む独特の手腕で頭角を現した。

 89年にシカゴ政界重鎮、リチャード・デイリー氏の市長選の資金集めで評価されたことで、92年のビル・クリントン氏の大統領選の運動員に推薦された。クリントン陣営でも資金集めで当選に貢献した。そのままクリントン政権に参加し、98年まで大統領の上級補佐官を務めた。

 この時期に資金集め以外の政務や政策にも手を広げる。2002年の連邦下院議員選挙に当選し、シカゴ選出議員の顔の一人になった。09年、オバマ政権で大統領首席補佐官に就任し、バイデン副大統領とも親交を結んだ。過去2代の民主党大統領のホワイトハウスで重責を担うと同時に、民主党の下院選挙運動委員会や議連で汗をかいた議会経験を持つまれな存在だ。政治的立場が異なる左派のペロシ下院議長とも緊密な関係にある。

風を読んで流れに乗る天賦の才能

 エマニュエル氏の天賦の才には、風を読んで流れに乗るセンスがある。筆者が90年代末に「シカゴ政治」に関わり始めた頃から、辣腕(らつわん)は畏れられていたが、この評価は当時から不変だ。08年大統領選ではかつての恩人のクリントン元大統領の夫人であるヒラリー氏を支持せず、どの陣営にも参加せず中立を貫いた。これがオバマ氏への新たな忠誠の証しになった。

 「エマニュエル氏ほど成功している人物はいない」と周囲に評されるが、それは勝ち馬に乗る巧みさに関する嫉妬ややゆも込められている。当初、オバマ政権の医療保険改革では、小規模案での現実的改革を主張していた。しかし、議会民主党や大統領の野心的な方針が揺らがないと見るや、抵抗せずに、先頭に立ち実現に尽くした。本人は民主党中道派だが、左派にもこの柔軟な態度が好評で、政権内でバイデン副大統領の信頼も得た。

 政治が天職といえるエマニュエル氏にとって、シカゴ市長は長年の夢だった。他方、政治活動の礎になる経済力について極めて現実的でもあった。クリントン政権を離れてからは「経済力をつける」と宣言し、割り切ってウォール街に転身する。短期間で相当な稼ぎを得たことも賛否含めて逸話になっている。

頭脳派で執念深いが合理主義者

 頭脳派で執念深く、狙いを定めたら離さない粘り強さも民主党内で共通している評価だ。民主党の議会幹部や各派に長年の貸し借りがあり、幅広く顔が利くだけでなく、資金集めのプロとして築いたビジネス界の膨大な名簿を抱えている。シカゴ政界でエマニュエル氏をよく知る人たちは「非常にエネルギーに満ちたアクティブな人物」であると口をそろえる。

 日本への着任後について、あ…

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