妥協なき合理化と障害者雇用の融合 トヨタがものづくりで見せた力
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1分1秒が勝負。効率化を徹底的に追求するトヨタ自動車の生産ラインは「トヨタ生産方式」として知られる。「人の動きとしてこれ以上無駄は省けない」ほど合理化を進める一方で、不良品は作らない仕組みだ。そこに2020年から、知的障害や精神障害のある従業員が加わった。そこに妥協は一切ないという。なぜ、どういう経緯で実現したのか。「変革」の舞台裏に迫った。【山田奈緒/デジタル報道センター】
※この企画は3回連載します。1回目はトヨタの障害者雇用の仕組み、2回目(4日掲載)はトヨタが取り組んだ背景、3回目(5日掲載)は障害者雇用を取り巻く現状を取り上げます。
重要部品を扱う知的・精神障害者
「コロナ禍で、知的障害者らの仕事が減っている」
記者がこうしたニュースを耳にしたのは、20年春以降のことだ。
記者はこれまで、障害者の取材を通じ、障害者に任される仕事の実態や受け入れる企業の本音に触れてきた経験がある。ともに働く社会は「また一歩、遠のいた」と思っていた。
そのころ、東京都内で20年8月にあったシンポジウムで、ある情報に触れた。「コロナ禍だからこそ、障害者雇用を発展させようとしている企業がある」
それがトヨタだった。その後取材を申し込み、現場での取材が実現した。
21年9月下旬、記者は愛知県豊田市にあるトヨタの工場を訪ねた。「プリウス」や「カムリ」の電池やエンジンなどを作る大きな工場だ。
長袖の服に反射帯ベスト、安全靴を履き、ヘルメットと防護メガネを着けて内部に入った。「よい品、よい考」という標語があちらこちらに掲げられていた。大型の機械が動く音に混じって、自動運搬機からは陽気な音楽が流れ、アルミを削る際の独特のにおいが立ちこめる。中を進むと、男性従業員と女性従業員が小さな部品を組み立てていた。
2人は手のひらに収まるほどのアルミ製のリング状のワッシャーに、プラグをはめていった。プラグはその後、モーターなどの基幹部品に組み込まれる。その時にこのワッシャーが潰れることで、オイル漏れを防ぐのだという。ワッシャーの取り付け方が不十分だったり、つけ忘れたりしたまま工程が進めば、完成した車は事故を起こしかねない。小さなサイズの部品だが、責任は重大だ。
実は、この2人は知的障害者と精神障害者だ。取材を受けてくれた内田翔さん(21)には精神障害がある。以前は、トヨタに届く郵便物などの仕分け業務をしていたという。21年6月からこの工場の勤務になった。当初は、においや音に驚いたというが「もう慣れました」とリラックスした表情だ。
仕事の楽しさを尋ねると「『車を作っている』というつながりを感じられるところ」と話した。どんなに小さな部品でも、それは世界中のトヨタ車の一部になっている。他の従業員とあいさつを交わすのも「トヨタの一員」とうれしく感じる瞬間だという。
知的障害や精神障害のある人が、本業のコアな部分に携わっている大企業は多くない。トヨタのようなメーカーに限らず、ひとたび作業ミスが起これば、膨大な損失につながるからだ。この工場では、どんな工夫をしているのだろうか。…
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