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東日本大震災から10年。原発安全神話が崩壊し、脱炭素社会への転換を迫られる今、この国のエネルギー政策を考えます。

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使われなくても増えていく水素予算の謎

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燃料電池車の車種が少ないため、普及がなかなか進まない水素ステーション=川崎市高津区で2021年5月3日、平田明浩撮影
燃料電池車の車種が少ないため、普及がなかなか進まない水素ステーション=川崎市高津区で2021年5月3日、平田明浩撮影

 走行時に温室効果ガスを排出せず、エネルギー効率も高いことから「夢の自動車」と言われてきた水素で走る燃料電池車(FCV)。ガソリンに代わる次世代環境車の切り札として期待されているが、肝心の水素燃料補給所の普及が進まない。整備を後押しする補助事業も予算が使われないほど低調だ。しかし、投じられる予算額は毎年のように拡大。予算と実態の隔たりを探ると、政府の水素戦略の見直しを迫る声が聞こえてくる。

あまりに高い政府目標

 10月上旬、東京都内のENEOS(エネオス)の水素ステーション。FCVの燃料となる水素の補給所だ。車の往来が激しい幹線道路沿いにもかかわらず、平日の午後5時から2時間、訪れた車は2台のみ。いずれも、トヨタが販売する水素で走るFCVの「MIRAI(ミライ)」で、5分ほどで充塡(じゅうてん)を終えるとさっそうと走り去って行った。

 次世代自動車振興センターによると、水素ステーションは現在、全国に156カ所ある。ENEOSはその約3割に相当する47カ所を都心部を中心に設置する業界首位。だが、初期投資には一般的な給油所の5倍近い約5億円を費やすほか、定期修理や検査、国家資格を持つスタッフの配置などで管理費もかさむ。FCVが普及しないことでコスト回収も困難なため、採算は合わない。ENEOSの塩田智夫・水素事業推進部長は「水素の活用が進むことを前提としていて、未来を見据えた先行投資の位置づけだ」と話す。

 政府は2035年までにガソリン車の新車販売をなくすことを目指している。世界では、電気自動車(EV)がガソリン車に代わる次世代車の主役の地位を固めつつあるが、成長戦略では水素を「カーボンニュートラルのキーテクノロジー」と位置づけ、30年までに水素ステーションの数を現在の6倍以上の1000基に、FCVを「80万台程度」にそれぞれ増やすとしている。だが、国内を走るFCV(商用車除く)は20年度末時点でわずか5170台。もともと「20年までに約4万台」という政府目標も未達成に終わっており、自動…

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