ウィシュマさん死亡直前のビデオに映っていたもの
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名古屋出入国在留管理局(名古屋市)で収容中の3月に死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)の死亡前の様子が少しずつ分かってきた。出入国在留管理庁が「保安上の理由」などから全面公開していなかった死亡直前の監視カメラ映像について、遺族代理人が裁判所に「証拠保全」を申し立て、裁判所が認めたためだ。裁判所の証拠保全の手続きの中で映像を見た代理人弁護士らから様子を聞き、イラストとして再現してみた。【上東麻子、和田浩明/デジタル報道センター】
ウィシュマさんの遺族は、ウィシュマさんの死の真相解明や損害賠償を求めて年明けにも国を相手取り、裁判所に訴えを起こす方針だ。証拠保全とは、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認められる」(民事訴訟法234条)場合に、裁判所に申し立て、それが認められると裁判所が証拠の確認などを行う手続き。例えば、医療訴訟で患者側が病院内に保管されているカルテの証拠保全を申し立て、患者側はカルテを見てから裁判を起こすかどうかを判断するケースなどで利用される。申立人は手続きに同席して、裁判官とともに証拠の確認を行う。今回明らかになったのは、その過程で弁護団が見た映像の内容だ。入管側の証拠の隠滅を恐れた遺族の代理人弁護士らが7月に証拠保全を名古屋地方裁判所に申し立てていた。名古屋地裁は9月6日に証拠保全の決定を下し、9月24日から断続的に手続きが進められている。
吐いても繰り返し食べさせる
映像を見た遺族代理人の駒井知会弁護士が「特に印象的だった」と挙げるのは、食事介助(イラスト①)とウィシュマさんがベッドから転落した場面(イラスト②)だ。
駒井弁護士の説明に基づくイラスト①は3月3日午後6時すぎごろ、職員がウィシュマさんに食事を食べさせようとした場面だ。ウィシュマさんは自力で座ることができず、ベッドの背に積み上げられた毛布によりかかるように座っている。職員は「おかゆ食べようか」などと話しかけ、スプーンを口に持っていき、食べさせようとするが、ウィシュマさんは吐いてしまう。職員はほとんど間を置かず、布のようなもので口を拭い、「野菜食べる?」「おかゆがいいかしら」などと言いながら、スプーンを口に運ぶ。ウィシュマさんは口に含むが、またすぐに吐いてしまう。バケツを手に持ち、バケツに顔をうずめるように戻していた。
イラスト①は死亡する3日前の映像を基にしている。「彼女はほとんど動かず、口から栄養をとることができない状態であることは素人目にも明らかです。もし、自分がこうした目に遭ったらどういう気持ちになるでしょうか。食べて吐いて、うがいをさせることもなく、また口の中にモノを入れられる。このような状態にある人に食べさせようとしていること自体が、きわめて残酷と感じました」と駒井弁護士は話す。
入管が8月に出した最終報告書には、同じ場面が「摂食状況及び水分摂取状況」として、こう描写されている。
<A氏(ウィシュマさん)は官給食の3食とも看守勤務者の介助(スプーンでかゆをすくってもらい、そのスプーンを口元に運んでもらう。)を受け、(中略)夕食ではかゆを少量ずつ食べた>
「ほんの少し映像を見ただけでも、最終報告書に書かれていないことがたくさんあることがわかりました」(駒井弁護士)
ベッドから転落したまま放置
イラスト②は次のような場面だ。亡くなる8日前の2月26日午前5時14分ごろ。ウィシュマさんはベッドから起き上がろうとして、「あー」という悲鳴とともに床に崩れおちてしまう。「タントウサーン(担当さん)」「タントウサーン」「タントウサーン」。ウィシュマさんはあおむけのまま何度も呼び続けていた。
2人の職員が部屋に入ってきたのは、転落してから約12分後の午前5時26分ごろ。職員は手と足を持ってウィシュマさんを持ち上げようとするが、持ち上がらない。
「私たちふたり、力ないから上げられない。一緒に頑張るよ。オーケー?」などと職員はウィシュマさんに声をかけ、職員が両脇から抱えるが、ウィシュマさんは立てない。「自分で頑張らないと。私たちも頑張るけど自分で頑張るんだよ」とさらに声をかける職員。「痛い、痛い」と訴えるウィシュマさん。
…
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