- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷

欧州連合(EU)の国境管理機関の統計によると、EU東部国境を違法に越える難民・移民は今年6月ごろから急増した。1~10月分を合計するとイラク出身者が4000人近くと最多で、アフガニスタン、シリア、アフリカ諸国などと続く。いずれも長年の戦乱で国土が荒廃した国々だ。「安定した暮らしを」と移動する人々は絶えず、地中海を越える南の海上ルートも利用されている。
イラクは2003年にイラク戦争で米英軍がフセイン独裁政権を打倒したが、その後イスラム教シーア派とスンニ派の宗派間対立が一時は内戦状態にまで陥った。さらに14年には過激派組織「イスラム国」(IS)が席巻し、混乱が長期化した。
ISは17年に駆逐されて治安は改善してきたが、政治腐敗に庶民が苦しむ構図が続く。公務員などの仕事を得るには政治家とのコネが必須という縁故主義が横行しているからだ。19年秋には経済不振や就職難、汚職に怒る若者中心のデモが起きた。
今年10月に記者が取材したイラク国内では「状況が改善しなければ再びデモに打って出るしかない」といった市民の切実な声を聞いた。世界有数の産油国イラクでEU諸国への移住に夢を託す若者らが後を絶たないのには、こうした背景がある。
深刻なシリアの状況は改善されず
シリアも状況は深刻だ。11年に起きた中東の民主化要求運動「アラブの春」を機に、民主化を求める市民と弾圧するアサド政権との戦闘が内戦に発展した。米国やロシア、イラン、トルコ、湾岸アラブ諸国が介入する国際紛争となり、間隙(かんげき)を縫ってISなどの過激派組織が一部領域を支配した。
その後、アサド政権は国土の約7割まで支配を回復させた一方、トルコが支援する反体制派やクルド人の支配地域も残る。米国などの経済制裁に加え、関係が深い隣国レバノンの経済混迷でシリア経済は大きな打撃を受けた。燃料や電力の不足は常態化している。
国外へ逃れた市民の中には、アサド政権による拘束を恐れて帰国を諦めている人も大勢いる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、20年末時点の世界の難…
この記事は有料記事です。
残り413文字(全文1280文字)