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安田菜津紀さん「差別は日常をねじ曲げる」 投稿者を提訴した理由

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ツイッター上での差別的投稿を巡り提訴に踏み切った理由を語るフォトジャーナリストの安田菜津紀さん=東京都千代田区で2021年11月25日、後藤由耶撮影
ツイッター上での差別的投稿を巡り提訴に踏み切った理由を語るフォトジャーナリストの安田菜津紀さん=東京都千代田区で2021年11月25日、後藤由耶撮影

 フォトジャーナリストの安田菜津紀さん(34)が8日、在日コリアン2世の亡父について書いた記事を巡り、ツイッター上で差別的な投稿をされ人格権を侵害されたなどとして、匿名の投稿者2人をそれぞれ東京地裁に提訴した。「差別の問題を先送りしたくない」と思ったからだ。そこには安田さんが続ける自らのルーツをたどる旅での出会いがあったという。提訴に踏み切った動機や狙いを詳しく聞いた。【塩田彩/デジタル報道センター】

 ※記事では差別表現を取り上げています。閲覧にご注意ください。

 安田さんはフォトジャーナリストとして、国内外の難民問題や貧困問題などの取材を続けてきた。安田さん自身が朝鮮半島にルーツがあると知ったのは高校生の時。パスポートを作るために見た戸籍で、安田さんが中学2年の時に死去した父の欄に見慣れない「韓国籍」という文字を見つけた。そこで初めて、亡き父が在日コリアン2世であることを知った。父は生前、安田さんに自らのルーツを一切語っていなかったという。

たどり着いた「差別にあらがうこと」

 安田さんは2020年、残された資料などをもとに、日本の中で父や祖父、祖母の生きた足跡を探り、自らのルーツをたどる旅を始めた。これまでに、京都市や神戸市を訪れた。家族の歴史を知ることは、家族を含む在日コリアンたちが直面してきた差別の歴史と向き合うことだった。

 父が生まれた京都市伏見区の生家跡を訪ねると、鴨川を隔てた川向こうは、かつて京都朝鮮第一初級学校があった場所だった(12年に別の場所に移転)。09年以降、3度にわたり、排外主義を掲げるヘイト団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)のメンバーらが押しかけ、学校にいる在日コリアンの子どもたちや学校関係者らに向かって「スパイの子ども」「日本から出て行け」などのヘイトスピーチを浴びせた場所だ。在特会の西村斉・元京都支部長はその後、威力業務妨害罪で実刑が確定した。だが、西村氏らのヘイトスピーチを撮影したとみられる動画は、いまだネット上に出回っている。

 安田さんはインタビューでこう振り返る。「そうした差別を見るにつけ、なぜ父が自分の出自を語らなかったのか、自分の子どもにも伝えなかったのか、その理由の一部が、ここにあるのではないかと考えるようになりました。父は(私や兄に)差別される経験をさせたくなかった、差別を見せたくなかったのかもしれません。家族のルーツをたどる私的な旅の中で、『差別にあらがうとはどういうことなのか』という社会の普遍的なテーマに行き着いたように感じ、これを発信しようと決めました」

 安田さんは20年3月以降、副代表理事を務めるNPO法人「ダイアローグフォーピープル」のウェブサイトで、ルーツをたどる旅や家族についての記事を不定期でつづり始めた。フォトジャーナリストとして働く中で、自らの出自を隠すことはなかったが、家族について詳細に書くのは初めてだった。発信することで、攻撃的な反応が来ることは予想していた。不安やちゅうちょがなかったかと言えばうそになる。それでも「発信する意義の方が大きい」と考えたという。

亡父に向けられた差別ツイート

 <父が在日コリアンだと知ったのは死後だった。なぜ父は家族と縁を絶ち、出自を隠したのか。家族は朝鮮半島のどこから渡ってきたのか。もう死者に尋ねることはできない、と諦めていた。ところが今年、…

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【ヘイトスピーチ】

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