ドイツで新政権が発足し、中道左派・社会民主党のショルツ氏が首相に就いた。16年間にわたりドイツを率いたメルケル氏の後任として、欧州安定と国際協調に指導力を発揮することを期待したい。
政権は環境政党・緑の党と、市場経済を重視する中道の自由民主党との3党連立となった。首相を除く閣僚を男女同数とし、ジェンダー平等に配慮した。
緑の党の主張を政策に取り入れ、脱炭素を柱とする気候変動対策に取り組む姿勢が目立つ。
石炭火力発電所の全廃時期を従来の2038年から30年に前倒しした。さらに30年までに65%にする予定だった再生可能エネルギー比率を80%まで上積みしている。野心的な目標を国際社会における機運の高まりにつなげてほしい。
注目されるのは外交姿勢だ。メルケル前政権は、最大の貿易相手国である中国との結び付きを重視してきた。
緑の党から新政権の外相に就任したベーアボック氏は過去に、新疆ウイグル自治区の人権問題などで中国を厳しく批判している。
ドイツは最近、南シナ海にフリゲート艦を派遣するなど、安全保障面でもインド太平洋地域への関与を強めている。欧米と中国の関係が悪化する中、ショルツ政権はバランスのとれた外交を展開すべきだろう。
英国が離脱した欧州連合(EU)で、ドイツの役割はかつてなく大きくなっている。
ハンガリーやポーランドは、性的少数者の人権問題などで他のEU加盟国と対立する。域外では、ウクライナを巡ってロシアとの軍事的緊張が高まるほか、難民・移民問題でベラルーシとの関係も悪化している。
ドイツには欧州の分断を回避し、ロシアとの緊張を緩和する取り組みが求められる。
新政権は核兵器禁止条約の締約国会議に、オブザーバー参加する意向だ。北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、米国の「核の傘」の下にありながら、非核保有国の主張にも耳を傾ける姿勢を示している。
民主主義国と権威主義国との間で溝が広がっている。ショルツ首相は、国際社会の分断に歯止めをかける外交に力を注いでほしい。