空港を囲んだ覆面部隊 ロシアが隣国を強制編入する始まりだった
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ソ連崩壊から30年の節目に、歴代の毎日新聞モスクワ特派員がその前後に起きた出来事を紹介する。連載の第4回は真野森作元特派員が、ロシアによるウクライナ南部クリミアの強制編入と、その後の紛争を取り上げる。
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その日、私がタクシーで駆けつけた小さな空港には異様な光景が出現していた。2014年2月28日、ウクライナ南部クリミア半島でのことだ。中心都市シンフェロポリ郊外の古びた空港は自動小銃を手にした覆面の兵士たちに制圧されている。にらみを利かせる彼らは一体、何者なのか。「あれは間違いなくロシア軍の特殊部隊員ですよ。ロシアは不法にクリミアを分離させようとしている」。地元の少数民族クリミア・タタール人の若いテレビカメラマンは私に訴えた。
後にこのカメラマンの見立てが正しかったことが分かる。空港のみならず、半島内の全てのウクライナ軍基地は素性を隠したロシアの精鋭部隊に包囲されていった。明らかな軍事侵攻だ。
半月あまりを経た3月18日、ロシアのプーチン大統領は一方的にクリミアを自国領に編入すると宣言した。現代の国際社会では許されない武力による国境線の変更がなされた。後戻りできない、「ルビコン川を渡る」ような決定だった。米欧主要国とロシアの対立は決定的となり、その断絶は今、さらに深まっている。
当時、ほとんど誰もが予想し得ないロシアのクリミア編入だった。その直前、14年2月にはロシア南部でソチ冬季五輪が開かれていた。1991年のソ連崩壊後、混迷に陥ったロシアは00年に大統領に就任したプーチン氏の下、資源エネルギーの価格高騰に助けられて地力を回復させた。ソチ五輪は大国としての復活を内外にアピールする一大イベントだった。ロシアをはじめ各国の選手たちが技を競い、華々しく報じられた。
五輪開催の裏で起きた親露派政権の崩壊
五輪の裏で起きていたのがウクライナの首都キエフでの内乱、そして政変である。ウクライナは旧ソ連諸国でロシアに次ぐ人口規模を持ち、同じくスラブ系が国民の大半を占める。地理・歴史・政治的にロシアと欧州との間に位置する存在だったが、文化や経済面でロシアと深い結びつきを持つ。ロシアからすると、決して手放せない隣国と言える。
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