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2021年「この3冊」/上(その2止)

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『わたしが行ったさびしい町』
『わたしが行ったさびしい町』

江國香織(作家)

 <1>わたしが行ったさびしい町

 松浦寿輝著(新潮社・1980円)

 <2>テスカトリポカ

 佐藤究著(KADOKAWA・2310円)

 <3>今日でなくてもいい

 佐野洋子著(河出書房新社・1870円)

 <1>は全編に雨あがりの空気が漂っているような、静かで仄(ほの)暗くて清浄なエッセイ集。旅という行為に伴ってふいに発生する魂の余白と、そのごくささやかな自由が文章によって浮き彫りにされる。その自由は旅先につきものの不自由といわば比翼の鳥になっていて、“個人”というものについて考え/感じさせてくれる。

 <2>は熱量と文章密度の高い犯罪組織小説で、遮二無二おもしろかった。この作家の文体というよりこの小説のための文体が確立されており、硬質なその文体からふいにのぞく詩情に胸をつかれた。

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