衆院選「ジェンダー」報道、7媒体で前回比43倍 この4年で何が
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今月初めに発表された「2021ユーキャン新語・流行語大賞」でトップテン入りした「ジェンダー平等」。10月の衆院選では、選択的夫婦別姓や同性婚の制度導入などジェンダー政策が争点の一つになり、テレビのニュースでは連日のように「ジェンダー」の言葉を耳にした。衆院選中の全国紙など7媒体で、「ジェンダー」の言葉が登場する記事を調べてみると、2017年の前回衆院選の約43倍に。この4年で何が起きたのか。過去の報道はなぜ少なかったのか。「ジェンダー」とメディアを巡り、識者2人と考えた。【菅野蘭/デジタル報道センター】
衆院選のジェンダー関連の報道は、データベース会社「ジー・サーチ」の記事検索サービスで調べた。このサービスで検索可能な、毎日新聞など全国紙4紙、通信社2社、NHKの計7媒体を対象に、17年と今回の衆院選について、公示日から投開票日の期間でそれぞれ検索した。
見出しや本文に「衆院選」と「ジェンダー」の言葉を含む今回の衆院選中の記事は213本。17年はわずか5本で、約43倍に増えた。同様に「衆院選」と「夫婦別姓」で調べると、94本から265本と約3倍に増えていた。
19年の参院選から始まった変化
この大幅な増加について、ジェンダーと政治を専門にする三浦まり上智大教授に聞くと、「驚くべき変化です」と評価した。そして、この傾向は19年の参院選から始まったと教えてくれた。
同年7月の参院選公示を前に開かれた日本記者クラブ主催の与野党7党首の討論会。選択的夫婦別姓を認めるかを問われ、当時の自民党総裁の安倍晋三首相だけが挙手しなかった。
三浦教授は言う。「その頃から、市民団体『選択的夫婦別姓・全国陳情アクション』などの活動が盛り上がり、20年に政府が閣議決定した『第5次男女共同参画基本計画』について、自民党内の反対で選択的夫婦別姓の記述が消えたことが報じられました」
今年についても「性的少数者が尊重される社会の実現を目指す『LGBT理解増進法案』が、いったん超党派で合意したのに、一部の自民党保守派の反発で6月に国会提出が見送られるゴタゴタがありました。そうした中で、ジェンダー関連の政策への社会的認識が深まり、報道にも影響を与えたのだと思います」と話す。
市民側のSNS(ネット交流サービス)での情報発信についても、「今回の衆院選で、いろいろな市民団体が、ジェンダー関連のアンケートを各党や立候補者に行い、SNSなどで結果を公表するなどしました。新聞社のアンケートだと包括的な質問が多いですが、細かい内容で聞いていました。新聞などのメディアには、こうした動きをもっと報じてほしいです。来年夏には参院選もありますし、メディアと市民団体のSNSの好循環が生まれれば、あらゆる政策をジェンダー視点にも基づいて議論できるようになってくるのではないでしょうか」と期待した。
女性2人が出馬した自民総裁選が話題に
メディア・ジャーナリズム研究を専門にする、東京大学大学院情報学環の林香里教授にも、報道量の増加について聞いた。
林教授は、女性2人が立候補した今年9月の自民党総裁選や、政党に男女同数の候補者擁立を促す「政治分野における男女共同参画推進法」が18年に施行されてから、初の衆院選だったことに注目する。
「政権選択をする衆院選で、この推進法が適用された意味は重く、そこへの期待もありました。また、自民党総裁選に女性が2人立候補したことも初めてでした。そのことを自民党側が話題作りとして使った面があり、その流れもあってメディアが『女性と政治』に、スポットライトを当てたところはあると思います」
その上で、ジェンダーに関する報道の増加について「今の段階では歓迎すべきことだと思います。ただ、そのこと自体がニュースになることは、女性に注目したこれまでの報道の少なさの裏返しでもありますよね」と話した。
過去の報道の少なさ バッシングの影響も
そもそもジェンダーに関する報道は、なぜ過去は少なかったのだろうか。
林教授は「『ジェンダーバッシング』の問題が大きかったと思います。『ジェンダー』という言葉を使うと、講演が中止になるなどの時期がありました」と説明する。
1990年代半ば以降、社会的・文化的につくられた性差を押しつけないことを示す和製英語の「ジェンダーフリー」の考え方が広まり、自治体の男女共同参画や学校教育の現場で取り組まれてきた。だが、00年代には「男らしさや女らしさが失われる」「伝統的な家族観を否定する」「過激な性教育につながっている」などの反発が自民党の保守派などから強まった。「ジェンダー」という表現を使わないように求める声も上がり、04年に東京都が「ジェンダーフリー」の用語を使わない方針を打ち出した。また06年に内閣府が、自治体に「用語をめぐる誤解や混乱を解消するため、今後はこの用語を使用しないことが適切」とする通知を出すなどの動きがあった。
自民党では05年、安倍氏が座長、山谷えり子参院議員が事務局長の「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム(PT)」が発足した。PTは、政府で見直しが議論されていた男女共同参画基本計画案について、「ジェンダー」の文言を入れないように要請。議論の末、同計画に補足説明付きで盛り込まれた。10年の参院選の同党マニフェストには「過激な性教育やジェンダーフリー教育(中略)は行わせない」とする文言もあった。
05年には、東京都国分寺市が、都委託の講座に社会学者の上野千鶴子さんを講師で招こうとしたところ、都が「ジェンダーフリーに対する見解が合わない」と拒否して中止になった。この講座は同市が翌年、単独開催した。14年には山梨市が企画した、上野さんの講演会が中止になりかけた騒動もあった。
ジェンダーバッシングが強まった00年代を含めて、毎日新聞のデータベースで、「ジェンダー」の言葉を含む記事の量の変化を調べて…
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