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バイロイト仕込みの達人が語る~新国立劇場「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

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 新国立劇場オペラパレスで上演されたワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の新制作上演(全3幕原語上演・日本語字幕付き、大野和士指揮、イェンス=ダニエル・ヘルツォーク演出)の公演リポート後編。2012年からバイロイト祝祭管弦楽団のメンバー(第1ヴァイオリン)としてキリル・ペトレンコやクリスティアン・ティーレマンといった名指揮者らの下でワーグナー作品を数多く演奏してきた金澤威史氏(南オランダ・フィル コンサートマスター)に12月1日の公演を鑑賞してもらい、その感想をもとにステージを振り返ってみたい。

(宮嶋 極)

新国立劇場「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
新国立劇場「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

 金澤氏は2012年からバイロイト祝祭管弦楽団のメンバーとなり、以来、ペトレンコ指揮による「ニーベルングの指環」、ティーレマン指揮の「ローエングリン」や「トリスタンとイゾルデ」など数多くのワーグナー作品をバイロイトのピットで弾くなど、日本人ヴァイオリニストとしては屈指のワーグナー作品の演奏経験の持ち主である。今年のバイロイト音楽祭では「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(フリップ・ジョルダン指揮、バリー・コスキー演出)の演奏を担当したそうだ。そんな金澤氏は今回の新国立劇場の「マイスタージンガー」のステージをどう受け止めたのだろうか。

金澤威史氏 拡大
金澤威史氏

 「コロナ禍の中でさまざまな困難があったにもかかわらず、丁寧に作り込んだステージに仕上がっていたなと感じました。歌手陣ではポーグナーを演じたギド・イェンティンスがよい出来だったのではないでしょうか。エーファの林正子も持てる力を発揮していたように映りました。ザックスのトーマス・ヨハネス・マイヤーは健闘していましたが、長丁場だけに最後は少し声量がなくなっていましたね。オーケストラは、全体に高いレベルの演奏を聴かせていましたが、日本人のまじめさが表れていたというのか、ヴァイオリンでも細かい音符までしっかりと正確に弾き込まれていたのが印象に残りました」という。

 大野和士の指揮については「細部にわたって丁寧に音楽作りが行われていたことに驚きました。これは個人的な感想ですが時折、間を空けてゆっくりと音楽を進めていく箇所があり、もう少しワーグナーらしい大きな音楽の流れが表現されるとより良かったのではないかなとも思いました」と語っていた。

 なお、金澤氏は来年の東京・春・音楽祭でヨーロッパのオケ仲間とともにクァルテットを組み、ハイドンの弦楽四重奏曲第23番、25番、82番をプログラムとした演奏会(4月16日、旧東京音楽学校奏楽堂)を開く予定(21年12月現在)。バロック・ヴァイオリンにも取り組む金澤氏が、ワーグナーとはまた違ったハイドンの世界をいかに表現してみせるかも楽しみである。

プロフィル 金澤 威史(かなざわ たけし)

 東京生まれ。全日本学生音楽コンクール東日本大会小学生の部、中学生の部で入賞。西川重三、田中千香士、鈴木共子の各氏に師事。早稲田大学卒業後、ドイツのケルン音楽大学でゲルハルト・ペータース、デュッセルドルフ音楽大学にてアイダ・ビーラーのもとで研鑽(けんさん)。室内楽をメロス弦楽四重奏団、アルバン・ベルク弦楽四重奏団に師事。マスタークラスにてトーマス・ブランディス、ジョルジ・パウクらに師事。古楽器をムジカ・アンティカ・ケルン、コンチェルト・ケルン、フライブルガー・バロックオーケストラのメンバーやフィリップ・ヘレヴェッヘ等と演奏。また現代音楽をピエール・ブーレーズ、ペーテル・エトヴェシュやピエール=ローラン・エマールに師事。シュレスヴィヒ・ホルシュタイン、ラインガウやブカレストのエネスク等数多くの音楽祭に参加。オーケストラ奏者としては在学中にケルンのオペラハウス(ギュルツェニッヒ管弦楽団)と第1ヴァイオリン奏者として契約。その後ベルギーの王立フランダースフィルハーモニーの第2ヴァイオリン首席奏者を経て南オランダフィルハーモニー管のコンサートマスターに就任し現在に至る。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、フランクフルト放送響、ケルン放送響等ヨーロッパ各地のオーケストラに客演。2012年からバイロイト祝祭管弦楽団のメンバー。

公演データ

【新国立劇場 ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」新制作上演】

11月18日(木)16:00 21日(日)14:00 24日(水)14:00 28日(日)14:00

12月1日(水)14:00 オペラパレス

指揮:大野 和士

演出:イェンス=ダニエル・ヘルツォーク

美術:マティス・ナイトハルト

衣裳:シビル・ゲデケ

照明:ファビオ・アントーチ

振付:ラムセス・ジグル

演出補:ハイコ・ヘンチェル

舞台監督:髙橋 尚史

ハンス・ザックス:トーマス・ヨハネス・マイヤー

ファイト・ポーグナー:ギド・イェンティンス

クンツ・フォーゲルゲザング:村上 公太

コンラート・ナハティガル:与那城 敬

ジクストゥス・ベックメッサー:アドリアン・エレート

フリッツ・コートナー:青山 貴

バルタザール・ツォルン:秋谷 直之

ウルリヒ・アイスリンガー:鈴木 准

アウグスティン・モーザー:菅野 敦

ヘルマン・オルテル:大沼 徹

ハンス・シュヴァルツ:長谷川 顯

ハンス・フォルツ:妻屋 秀和

ヴァルター・フォン・シュトルツィング:シュテファン・フィンケ

ダーヴィット:伊藤 達人

エーファ:林 正子

マグダレーネ:山下 牧子

夜警:志村 文彦

合唱指揮:三澤 洋史

合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団

管弦楽:東京都交響楽団

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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