高校の国語教育改革が現場で受け入れられていない実態が改めて浮き彫りになった。
来年度から高校1年生が学ぶ新しい必修科目「現代の国語」で、5点の小説を掲載した教科書が全国の採択数トップとなった。昨年度の教科書検定で合格となったものだ。
新学習指導要領は、論理的・実用的な国語力の育成に重点を置く。中核を担うのがこの新科目で、文部科学省が教材として想定していたのは、評論や企画書、法令文などだった。文学作品は別の新科目で扱われる。
文科省の意を酌み、小説の掲載を見送った他の教科書会社は「不公平だ」と反発している。
これに対し、検定に当たった審議会は「文学作品の掲載が一切禁じられているわけではない」と説明する。一方で、2024年度に実施する次回の検定については「より一層厳正な審査を行う」と表明している。
根本的な問題は、文科省が現場の理解を十分に得ないまま改革を進めたことにある。
現在の国語教育に批判があるのは事実だ。授業が小説などの読解中心になっているとして、「自分の考えを的確な表現で、論理的に相手に伝える力が身に付いていない」と指摘される。
しかし、小説を読み解き、思索を深めれば、論理的思考が養われる。さまざまな作品に接することで語彙(ごい)が増え、豊かな表現力を育むことにもつながる。
改革の狙いは分かるが、手法が性急だったと言わざるを得ない。多くの教師は今まで通り、小説を授業に使いたいと考えており、大きな隔たりがある。
混乱を極めた大学入試改革にも同様の問題があった。
大学入学共通テストは当初、思考力や表現力を重視し、記述式問題の導入を予定していた。ところが、現場から採点の公平性を確保できないという指摘が相次ぎ、頓挫した。
いずれも理念が先行し、実現に向けた課題を十分に考慮していたとは言い難い。
現場軽視の強引な改革はいずれ行き詰まる。文科省には、教師や生徒の声に耳を傾けながら、教育の質を高めていく責任がある。