景気判断などに使われる政府の統計で、またも不正が発覚した。2018年には厚生労働省の不適切な調査手法が問題となった。データを軽視する体質は一向に改まっていない。
国土交通省が毎月集計する「建設工事受注動態統計」で、数値が長年にわたって書き換えられていた。統計法で定められた基幹統計の一つで、国内総生産(GDP)にも反映される重要な指標だ。
事業者の調査票提出が遅れ、複数月分がまとめて出された場合、合算した数字を最新月の業績として記載していた。事業者に無断で消しゴムを使って修正しており、統計法違反の恐れがある。
13年からは、調査票が届かなかった月には推計値を計上する形式に改めた。だが、合算する手法も続けたため、推計値との二重計上が生じた。
数値は実態よりかさ上げされ、GDPの推計にも影響を与えた可能性がある。
会計検査院の指摘を受け、国交省は20年1月分から是正を始めた。しかし、その事実を公表せず、経緯も調査しなかった。
岸田文雄首相は問題が報じられた15日になって「経緯を確認し、再発防止策を検討する」と述べた。これから第三者委員会を設置して調査を始めるというが、遅きに失したと言わざるを得ない。
厚労省の不正では、雇用の動向を示す「毎月勤労統計」で必要な処理を怠った結果、延べ約2000万人分の雇用保険と労災保険が過少給付されていた。
その後、総務省は基幹統計の一斉点検を行い、不備をチェックする担当者を各省庁に配置した。だが、国交省の問題は見逃された。
統計の役割は大きい。さまざまな指標から課題を読み取り、迅速に対策を打つデータ重視の政策が求められている。にもかかわらず、専門人材は少なく、精度を高める体制は整っていない。
毎勤統計の不正は、賃金改善をアピールしたい政権の意向が働いたとの疑念を招いた。都合良く操作できるという印象を持たれれば、信頼性が大きく損なわれる。
政府の認識は甘すぎる。不正が続いた背景や経緯を徹底的に究明し、有効な再発防止策を講じなければならない。