崩れた検察シナリオ 情報漏えい「真犯人」は誰? 高知・香南市談合
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入札情報を漏らした「真犯人」は誰なのか――。ある官製談合事件を巡り、人口約3万人の小さな自治体が揺れている。当初、情報を漏らしたとされた市課長について検察が起訴を取り消す一方、市長が業者から商品券を受け取っていたとして突如、辞意を表明した。情報漏えいの核心部分は不明のままだ。業者らの公判は17日から始まるが、検察側のシナリオは大きく揺らいでいる。
10万円差で落札
事件の舞台は高知県東部の香南(こうなん)市役所。太平洋に面し、空の玄関「高知龍馬空港」の北東約3キロに位置する。
高知県警は9月、市営団地解体工事の入札情報を漏らしたとして、市住宅管財課長の村山敦さん(58)を官製談合防止法違反などの疑いで逮捕。高知地検が起訴した。
捜査機関が描いた構図はこうだ。2020年12月の入札前、当時市議だった志磨村公夫被告(61)が、村山さんから「最低制限価格」に近い額を聞き出し、建設会社社長だった北代達也被告(53)に伝えて落札させた――。
入札では最も低い価格を提示した業者が落札するが、予定価格を上回ったり、最低制限価格を下回ったりすれば無効になる。いずれも事前には公表されない。
この入札には8社が参加し、4社が無効に。北代被告は最低制限価格をわずかに10万円上回る2900万円で落札した。志磨村被告は情報を聞き出した見返りに、北代被告から10万円分の商品券を受け取ったとして、あっせん収賄などの罪で起訴された。
「ストーリーありき」
ところが、この構図はあっけなく崩れる。捜査関係者によると、「村山さんから価格を教わった」と述べていた志磨村被告が供述を翻したという。村山さんは一貫して否認していた。
21年11月12日。地検は自ら、起訴後の勾留取り消しを高知地裁に求め、村山さんは即日、釈放された。
「一方の供述だけで全てが動いていた。ストーリーができあがっていたんじゃないか」。村山さんは同月16日、記者会見を開いて捜査を批判した。村山さんが否定しても捜査員は聞く耳を持たず、「自供待ち」「決め打ち」のような態度をとり続けたという。
異例の捜査経過も明らかになった。弁護人を務めた市川耕士弁護士によると、県警の事情聴取は5月から始まり、9月1日に逮捕。その3日後、弁護人の準抗告を地裁が認めていったん釈放されたのに、地検は同月11日、同じ容疑で再び逮捕していた。
村山さんは取り調べで「11日には出頭する」と伝え、居場所が分かるようにGPS(全地球測位システム)も装着していたという。市川弁護士は「不確かな容疑で2度も逮捕することは許されない」と捜査を批判し、裁判所の審査の甘さも指摘した。
ノートに「負けるな」
村山さんは取り調べの様子を「被疑者ノート」に記録していた。捜査員は東…
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