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フィクションの書きにくい現代日本 文芸時評・田中和生×山本貴光

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対談した文筆家の山本貴光さん(左)と本紙「文芸時評」執筆者の田中和生さん=東京都千代田区で2021年12月10日、吉田航太撮影
対談した文筆家の山本貴光さん(左)と本紙「文芸時評」執筆者の田中和生さん=東京都千代田区で2021年12月10日、吉田航太撮影

 新型コロナウイルスによって変化した日常が、人々の価値観を揺さぶった2021年。多様化が進む社会は、一方で分断も顕在化しつつある。不安定な世界と作家たちはどう向き合ってきたのか。毎日新聞「文芸時評」欄の執筆者で文芸評論家の田中和生さんと、文芸誌「文芸」(河出書房新社)で21年冬季号まで「文芸季評」を連載した文筆家の山本貴光さんに、この1年で印象に残った作品5選を挙げて語り合ってもらった。【構成・関雄輔】

現代の「分からなさ」に迫る未完の長編

 田中 まずは「文芸季評」の連載お疲れさまでした。

 山本 約4年の連載だったのですが、最終回では、いわゆる“文芸”ど真ん中の作品ではなく、社会学者、岸政彦さん編の「東京の生活史」という本を中心に据えました。東京に縁のある人150人のライフヒストリーなのですが、聞き書きをなるべく加工せず載せていて、それがすごく面白い。話が突然始まったり、語り手が急に思い出したエピソードがさしはさまれていたりして、その連続の中で、自分と東京、家族や友人、仕事との関係が語られています。いかにも作り物めいたものとは違う素のままの語りで、もともと文芸ってこういうものだったのかな、と思いながら読みました。今回の5作は、この面白さに匹敵するものに何があっただろうかと考えて選びました。

 田中 今のお話は象徴的で、作り込んだ作品にリアリティーが感じられなくなっているということだと思うんです。僕もこの1年を思い出してみて、今の日本をフィクショナルに描いた作品で心に残ったものがほとんどありません。現代日本を素材にしたフィクションが書きにくくなっているということではないでしょうか。

 山本 同感です。橋本治さん(2019年死去)の未完の長編「人工島戦記」は、執筆開始は1993年ですが、今の日本をどうしたらリアルに書けるかという問いに対しての橋本さん流の答えだと思いました。社会がどうしてこうなったのか。人工島なんてものを…

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