もう死なせない 野良猫救出作戦に立ち上がった鉄工所の男性たち

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鉄工所の男性たちが作った箱に入り、子猫の世話をする「ちゃーびー」=2021年夏、大島翔平さん(仮名)撮影
鉄工所の男性たちが作った箱に入り、子猫の世話をする「ちゃーびー」=2021年夏、大島翔平さん(仮名)撮影

 かわいがっていた野良猫が、ある日、産んだ子猫をくわえて見せにきた。しかし、その子猫は既に死んでいた――。川崎市の京浜工業地帯の鉄工所で働く作業員の男性は、その時の衝撃が忘れられない。猫の妊娠・出産には気付いていたが、子猫の居場所が分からず、救いの手をさしのべることができなかったのだ。「今度生まれてくる子猫は、死なせたくない」。そう誓った心優しい作業員たちの“猫救出作戦”を紹介したい。【中嶋真希/デジタル報道センター】

 作業員たちは勤務先などから場所が明らかになってこれ以上野良猫が増えないよう、仮名で取材に応じてくれた。大島翔平さん(仮名、39歳)とその野良猫の出合いは2020年の夏。職場の近くの広大な駐車場で、だ。東京都大田区、川崎市、横浜市を中心に広がる京浜工業地帯は、捨てられるなどした多くの野良猫が生息する。ただ、エサにありつけなかったり、暑さなどをしのぐ場所が限られていたりと、猫が生きる上では厳しい環境でもあるという。この駐車場では、複数の猫が顔を出し、大島さんら猫好きの作業員たちがエサをやったり、アルミなどで簡易の猫小屋をつくったりと世話を焼いていた。茶トラ模様のそのメス猫は、いつのころからか「ちゃーびー」と呼ばれていた。

 ちゃーびーは、おなかがすくと駐車場にやってきて、エサをねだった。ほかの猫は、エサを食べに来ても触ることはできないが、ちゃーびーは頭をこすりつけて「なでて」と甘えてきた。大島さんは、出合った当初から、ちゃーびーに特別な思いを抱いていた。背が高くひげを生やし、一見こわもての大島さんだが、ちゃーびーの話をするときは表情が緩む。

 そのうちちゃーびーの世話をする3人の仲間ができた。大島さんとは別の会社の男性たちで、駐車場で顔を合わせるようになり、猫情報を交換するようになった。

「この子を助けて」ちゃーびーの訴え

 今年の春ごろ、ちゃーびーのおなかは大きく膨らみ、妊娠していたようだった。ある日、膨らみがなくなり、大島さんは「どこかで出産したんだ」と気がついた。しかし、子猫がどこにいるのかわからない。「そのうち、子猫を見せにくるだろう」と楽しみに待っていた。

 忘れもしない、6月1日のことだった。駐車場に、ちゃーびーが子猫1匹をくわえてやってきた。その姿を見た仲間の1人、斉藤誠さん(仮名、54歳)は、子猫がすでに死んでいると気がついた。斉藤さんから知らせを受けて大島さんが慌てて駆けつけると、…

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