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名古屋出入国在留管理局に収容中だった3月に死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)への入管職員の対応は専門家からみて適切だったのか。ウィシュマさんの死亡前の様子を記録した監視カメラ映像の一部を再現したイラストなどを複数の専門家に見せ、疑問点を指摘してもらった。映像の一部は12月24日に衆院法務委員会の「映像記録閲覧会」で開示され、今国会で真相究明と再発防止に向けた審議が再開する見通しだ。【上東麻子/デジタル報道センター】
問題の映像は名古屋入管が内規に基づいて撮影し、名古屋地裁の証拠保全の手続きの中で遺族代理人弁護士らも閲覧している。専門家に見てもらったイラストは12月6日の記事「ウィシュマさん死亡直前のビデオに映っていたもの」に掲載した4枚。映像を実際に見た複数の代理人から聞き取った状況をイラストとして再現したものだ。出入国在留管理庁が8月にまとめた最終報告書も併せて参照してもらった。
ウィシュマさんは昨年8月に名古屋入管の収容施設に収容された。最終報告書によると、1月中旬ごろから食欲不振、吐き気、体のしびれなど体調不良を訴えていた。収容時に85キロあった体重は、2月23日には65・5キロになり、半年間で20キロ減っていた。2月下旬にはトイレや着替えにも介助が必要な状態になっていた。
33歳の若さで死亡したことから適切な治療を受けていたかが疑問視されたが、監視カメラ映像が開示されてからは死因や治療に加えて、入管職員による対応が「介護虐待」(代理人弁護士)に当たるのではないかと指摘されている。
吐いても食べさせる「窒息・誤嚥の危険性」
イラスト①は、死亡する3日前の3月3日午後6時すぎごろ、職員がウィシュマさんに食事をさせようとしている場面だ。映像を見た遺族代理人の駒井知会弁護士によると、ウィシュマさんは自力で座ることができず、ベッドの背に積み上げられた毛布に寄りかかるように座っている。職員は「おかゆ食べようか」などと話しかけ、スプーンを口に持っていき、食べさせようとするが、ウィシュマさんは吐いてしまう。職員はほとんど間を置かず、布のようなもので口を拭い、「野菜食べる?」「おかゆがいいかしら」などと言いながら、スプーンを口に運ぶ。ウィシュマさんは口に含むが、またすぐに吐いてしまう。バケツを手に持ち、バケツに顔をうずめるように戻していた。
日本介護福祉経営人材教育協会の理事を務め、介護マネジメントなどを研究する尾林和子・日本福祉大学教授は「吐き続けているのに食べさせることは、誤嚥(ごえん)の可能性もあり危険です。医療機関に相談すべきレベルでしょう。嘔吐(おうと)物を喉などに詰まらせないようにするために横向きに寝かせるなどの配慮や口腔内の残滓(ざんし)物の除去、口の周りを拭うなどの処置が必要です。脱水の危険もありますから、輸液などの医療処置も必要かもしれません」と指摘する。
内科医の今川篤子・あびこ診療所長(千葉県我孫子市)も「飲食は中止すべきです。吐いた物による窒息や誤嚥性肺炎を防ぐために、できるだけ横向きに寝かせるなどの対応を取る必要があります」と話す。イラスト①の状況では、誤嚥の危険性があり、横向きに寝かせるべきだったとの認識は共通している。
今川医師は、医師として急性胃腸炎や胆道感染症、腎不全など代謝性による疾患などを疑うとの認識を示したうえで「この時点で医師の診察を受け、嘔吐の原因を調べたらよかったと思います」と指摘する。さらに「嘔吐が続き食事や水分が十分摂取できていない状態であればすぐに補液を行います。吐いているのに食べさせ続けることは考えられません。逆にどのような意図、あるいは指示があって食べさせ続けていたのか知りたい」と話す。
出入国在留管理庁の最終報告書は、イラスト①の場面を次のように描写している。
<A氏(ウィシュマさん)は官給食の3食とも看守勤務者の介助(スプーンでかゆをすくってもらい、そのスプーンを口元に運んでもらう)を受け、(中略)夕食ではかゆを少量ずつ食べた>
ウィシュマさんがバケツに吐き戻す様子には触れていない。この描写から介助が適切だったと言えるだろうか。今川医師は「報告書だけ読むと栄養を取るために職員が介助して食事を取らせるようにしたという“適切な行動”を取ったような印象ですが、報告書が吐いていることに触れていないのは疑問です」と話す。
「介護職員なら対応可能だった」
イラスト②は亡くなる8日前の2月26日午前5時14分ごろ。ウィシュマさんはベッドから起き上がろうとして、「あー」という悲鳴とともに床に崩れ落ちてしまう。「タントウサーン(担当さん)」「タントウサーン」「タントウサーン」。ウィシュマさんはあおむけのまま何度も呼び続けていた。2人の職員が部屋に入ってきたのは、転落してから約12分後の午前5時26分ごろ。職員は手と足を持ってウィシュマさんを持ち上げようとするが、持ち上がらない。
「私たちふたり、力ないから上げられない。一緒に頑張るよ。オーケー?」などと職員はウィシュマさんに声をかけ、職員が両脇から抱えるが、ウィシュマさんは立てない。「自分で頑張らないと。私たちも…
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