深海に及ぶPCB汚染 二枚貝被害「もう一つの生態系」に影響も

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相模湾・初島沖の水深約900メートルで、有人潜水調査船「しんかい6500」のロボットアームなどを使い採集されるシロウリガイの仲間=海洋研究開発機構提供の動画から
相模湾・初島沖の水深約900メートルで、有人潜水調査船「しんかい6500」のロボットアームなどを使い採集されるシロウリガイの仲間=海洋研究開発機構提供の動画から

 天然には存在しない有害物質「ポリ塩化ビフェニール(PCB)」による深海の汚染が予想以上に広がっている。餌を食べずに生きる貝からも検出され、陸から遠く離れた海域でも見つかった。浅い海とは独立した生態系を持つ深海で今、何が起きているのか。

 海洋研究開発機構の研究チームは2019年8~9月、有害物質による汚染状況を調べるため、有人潜水調査船「しんかい6500」で相模湾・初島沖の水深約900メートルの深海底を調査した。海底から水が湧き出てミネラルが豊富な海域で、これらを栄養源にした生き物による生態系が広がる。太陽光が届き、光合成をする植物プランクトンなどが中心の浅い海の生態系からは独立した「もう一つの生態系」だ。

 湧水(ゆうすい)の周辺では、体長10センチほどの二枚貝が密集していた。自分では餌をとらず、エラにすむ細菌が作る有機物を栄養にして生きているシロウリガイの仲間だ。チームはロボットアームを使って網状のスコップで貝を採集。実験室に持ち帰って調べると、貝に含まれる脂肪分1グラムあたり平均24ナノグラムのPCBが検出された。

 PCBは人工的に合成された物質だ。水に溶けにくく、熱で分解しにくいなど化学的に安定していることから、電気機器の絶縁油など幅広く使われていた。一方、脂肪に溶けやすく、生物への毒性が高い。ヒトの体内に蓄積されると、色素沈着などの皮膚症状、関節の腫れなど多様な中毒症状を引き起こす。

 日本では1968年、製造過程でPCBが混入した食用油による食中毒事件「カネミ油症事件」が起き、患者の子や孫への健康被害も指摘されている。国内では74年に製造や輸入、使用が原則禁止された。

 だが、…

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