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選択と集中、外国人“排除”…内田樹さんが憂う「意地悪ニッポン」

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神戸女学院大名誉教授の内田樹さん=神戸市東灘区の「凱風館」で2021年12月23日、吉井理記撮影
神戸女学院大名誉教授の内田樹さん=神戸市東灘区の「凱風館」で2021年12月23日、吉井理記撮影

 2022年を迎えた。新春だからこそ日々のせわしいニュースを離れ、衰微するニッポンの今と未来を俯瞰(ふかん)してみたい。神戸女学院大名誉教授で思想家の内田樹さんを訪ねると、こんな答えが返ってきた。「『選択と集中』をやめなさい」。どういうことか?【吉井理記/デジタル報道センター】

 ――「選択と集中」は、限られた人やカネの使い方を吟味し、より有用だと思われる事業や部門に多く振り向けたほうが効果的だ、という考えです。毎日新聞には1993年5月の大手繊維メーカー社長のインタビューで初めて登場します。以来約30年間、1400本超の記事で語られてきました。これを「捨てる」とはどういうことでしょうか。

 ◆「パイ」が大きくなっている時には、「選択と集中」というようなことは誰も言いませんでした。90年代初めまでは、大学でも研究費は潤沢でした。僕のような文学研究者の研究費なんか自然科学系に比べるとごくわずかですから、使い切れないほど予算がつきました。分配比率なんて誰もうるさく言わなかった。でも、右肩上がりの時代が終わり、「パイ」が縮み始めると、いきなり人々が「パイの分配方法」をやかましく論じだした。「選択と集中」という言葉が出てきたのはその時です。分配にはルールが必要だ、無駄遣いをなくせ、制度のフリーライダーをたたき出せ、資源は社会的生産性や有用性に応じて傾斜配分すべきだ、という「せこい」話になった。

選択と集中はブルシット・ジョブを生む

 ――それはそれで合理的に見えますけれど……。

 ◆僕も最初のうちは資源の傾斜配分には合理性があると思っていました。でも、よく考えたら、どの研究に将来的な可能性があるかなんて実は予測できないんです。加えて、「なぜこの研究が有望か」を説明するために、書類書きや会議でのプレゼンテーションで膨大な時間とエネルギーを費やさなければならなくなった。「パイの取り分」を確保するためには研究教育のための時間を削るしかない。予算規模が大きい自然科学分野では、「金策」に忙殺されて肝心の研究が進まないという悲劇が起きました。

 ――倒錯していますね。確かに文系の研究者からも同じ声を耳にしたことがあります。いかに結果を出したか、それっぽく見える書類作成に時間が割かれる、と嘆いていました。

 ◆でも、無駄をゼロにして、成功するプロジェクトだけに資源を集中するということはできないんです。それは「当たる馬券だけ買え」というのと同じ無茶な要求なんです。どんな分野でも、どの研究が空振りし、どれが「大化け」するかなんて事前にはわからない。だから無駄をゼロにすることは原理的に不可能なんです。でも、今の研究者たちは、自分の研究は無駄ではないことを証明するために、研究時間を犠牲にして、膨大な量の作業を強いられている。この作業は何の価値も生み出していない。

 ――なるほど。しかし現実にパイは縮小している。分配できるお金も少なくなっていますが……。

 ◆…

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