ロシアで続くLGBT弾圧 映画化した監督の思いと用いた技術とは

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ドキュメンタリー映画「チェチェンへようこそ--ゲイの粛清」の日本版PR画像=MadeGood Films提供
ドキュメンタリー映画「チェチェンへようこそ--ゲイの粛清」の日本版PR画像=MadeGood Films提供

 人権状況の悪化が伝えられるロシア南西部チェチェン共和国で、LGBTなど性的少数者への弾圧も続いている。現地の状況を潜入取材した米国の映画監督の最新作では、人工知能(AI)技術を応用した“ある手法”によって、危険にさらされた当事者の喜怒哀楽を活写している。2月下旬からの日本公開を前に、オンライン取材で監督の思いを聞いた。

 公開される作品は「チェチェンへようこそ――ゲイの粛清」。ドキュメンタリー映画監督、デイビッド・フランス氏(62)が1年半近くかけて、ロシアで被害当事者と支援する活動家を密着取材した。現地での取材を決意したのは2017年のことだった。

2017年にチェチェンで始まった摘発

 国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)の報告などによると、チェチェンでの同性愛者への組織的な弾圧は、この年の春に違法薬物に絡む捜査が転じて始まった。

 男性容疑者の携帯電話から同性愛者であるとみられる写真が見つかり、連絡先に載っていた男性らが次々拘束されていく。治安当局は殴打や電気ショックの拷問を加え、同性愛者と疑う100人以上を芋づる式に狩り出した。拷問で多数の死傷者や行方不明者が出たとされる。同様の弾圧はその後も繰り返された。

 フランス氏は17年夏、現地の惨状を伝える雑誌ルポを読んだ。それまで米国でのエイズ禍や性的少数者への差別を扱った作品で評価されてきた。「チェチェンで起きているのは、(ユダヤ人を根絶しようとした)ナチス・ドイツのヒトラー以来となる少数者の粛清だ。国際社会が対処していない現実にショックを受けた」と打ち明ける。

隠れ家の提供や脱出を助ける人たち

 フランス氏はロシアへ飛び、地元の人権団体「ロシアLGBTネットワーク」に取材を申し込んだ。この団体では、元々、何のノウハウも無かった活動家たちが一時避難用の隠れ家を国内に設け、危険にさらされた人たちの脱出と海外亡命を全面的に支えていた。

 活動を率いるロシア人男性は映画の中で「財政状況は苦しく、(脱出先の)ビザ取得も難しい。でも放ってはおけない。とにかく殺されない限り私たちの勝利だ」と胸の内を語る。「世の中には火事が起きたとき、助けに飛び込む英雄的な人たちがいる。私はこの映画を通して他者に対する愛をも描いた」とフランス氏は強調する。

 少数精鋭の制作チームはチェチェンからの脱出作戦の同行取材にも挑んだ。保護対象は地元政府高官の娘で、性的指向を理由に男性親族の監視下にあった。活動家たちは友人を装ってこの女性を現地から連れ出し、海外へ逃がした。

 「チェチェンは非常に閉鎖的な監視社会と感じた。地元政府は(性的少数者に対しては)親族であっても攻撃するよう人々をあおっている」。フランス氏はこう指摘する。

安全確保を最優先し、顔や声を変更

 保護された当事者らの安全確保を最優先するため、撮影は「絶対に身元が分からないようにする」と約束して進めた。報復の恐れがあるためだ。緊迫した現場での撮影ではビデオカメラを完全に隠し、スマートフォンや小型カメラも活用したという。

 この作品で採用したのは、AI…

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