賛否でくくれない 11人の沖縄女性の声 浮かんだ基地の町のリアル

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「アメリカンビレッジの夜-基地の町・沖縄に生きる女たち」著者のアケミ・ジョンソンさん=本人提供
「アメリカンビレッジの夜-基地の町・沖縄に生きる女たち」著者のアケミ・ジョンソンさん=本人提供

 米軍基地と隣り合わせで暮らし、基地容認や反対など、さまざまな意見が交錯する沖縄を追ったルポルタージュ「アメリカンビレッジの夜―基地の町・沖縄に生きる女たち」(紀伊国屋書店)が2021年9月に刊行された。著者は日系米国人4世のアケミ・ジョンソンさん(39)。主人公は、各章のタイトルにもなっている沖縄在住の11人の女性だ。彼女たちを通じて見えた、複雑さと矛盾に満ちた沖縄の基地問題とは――。【川上珠実/デジタル報道センター】

後を絶たない米軍の暴行事件

 最初に登場するのは、16年に元米海兵隊員の男に暴行され殺害された、うるま市の女性(20)である。

 記者は当時、この事件を沖縄で取材した。抗議のため那覇市で行われた県民大会には、哀悼の意を示す黒いかりゆしウエアやシャツ姿の約6万5000人が集まった。被害者を知る人々はもちろん、他の多くの沖縄の人々にも計り知れない傷を残したことを思い、やり場のない憤りに胸が苦しくなった。

 沖縄戦を生き延びた高齢の女性は、終戦直後に米兵による女性暴行が相次いだことを思い出し「ずっと米兵におびえてきた。いつまで苦しめば良いのか」と記者に苦しげに語った。だが、街頭やバーで米軍関係者に声をかけると「日本人の犯罪もあるのに、なぜ米兵の犯罪ばかりが注目を集めるのか」と不満げに聞かれたのだ。

 沖縄の女性が被害者になる米軍人らによる事件は、これまでも数多く発生している。

 著書によると、終戦後まもない時期に「芋掘り作業から帰る途中の19歳の女性、米兵4人に拳銃で脅され、交代で強姦(ごうかん)される」などの事件があった。基地への抗議活動を続けてきた女性グループが記録をまとめたものだという。

 1995年には米海兵隊員の男ら3人が小学生の女児を集団で拉致、暴行したが、米側は日米地位協定に基づいて日本側に起訴前の身柄引き渡しを拒否し、沖縄の反基地感情が爆発。日米両政府による米軍普天間飛行場(宜野湾市)の返還合意につながった。

 ジョンソンさんはうるま市の事件から1年後、遺体が発見された沖縄本島北部・恩納村を訪ねた。献花台にはたくさんの花束やぬいぐるみなどが置かれていたという。

 「この事件の語られ方に私は関心を持ちました。一つの犯罪以上の大きな意味を持っていたからです。事件と基地を巡るさまざまな問題が複雑に絡み合っているようでした。より大きな問題が議論されていることに気付きました」とジョンソンさんは言う。

女性の物語「賛否」だけではない

 「『女性たちについての物語』はあっても、『彼女たち自身が語る物語』には十分に耳を傾けてこなかったのではないでしょうか」

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