米議会襲撃は「民主主義の体現」 トランプ氏の「カウボーイ」の主張
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自由や人権を重んじる民主主義は、第二次世界大戦後の世界で広く、最善の政治体制と考えられ、リベラルな国際秩序形成の主柱にもなった。ところが今、中国やロシアといった権威主義国家が勢力を拡大する一方、民主主義が行き詰まっていると指摘されている。なぜなのか。世界各地の現場で起きていることを検証し、民主主義の再生に向けた処方箋を探る。まずは、大統領が選挙の敗北を受け入れず、平和的な政権移譲を拒否した米国の実態から紹介する。
「大統領選操作、可能性ゼロじゃない」
2021年1月6日、首都ワシントン。米国の民主主義の象徴である連邦議会の議事堂前に数千人の声が響いていた。「ウイ・ザ・ピープル(我ら人民)」。それは、1787年に制定された合衆国憲法の前文最初の言葉だ。カウボーイハットをかぶり議事堂のテラスによじ登ったコウイ・グリフィンさん(48)は、群衆を見渡し叫んだ。
「人々はもう、うんざりなんだ。引き下がるつもりはない」
グリフィンさんらにとり、バイデン大統領が勝利した2カ月前の大統領選は「盗まれた」選挙だった。その声を、議事堂の中にいる議員に直接届けなければと思っていた。だから、目の前の群衆の雄たけびは「民主主義の体現」だと信じて疑わなかった。
グリフィンさんは西部ニューメキシコ州オテロ郡で公職の郡政委員を務める。19年2月、不法移民対策として打ち出したメキシコ国境の壁の建設費を巡って苦境に立たされたトランプ大統領(当時)を応援しようと、「カウボーイズ・フォー・トランプ」を結成。馬に乗って東部メリーランド州カンバーランドから8日かけてワシントンまで約270キロを行進した。
旅を終えて空港にいたグリフィンさんの携帯電話が鳴った。トランプ氏だった。「コウイ、君は私の仲間のようだ」。9月にはホワイトハウスに招かれた。
「メディアは『トランプの壁』と呼んだが、違う。あれは『私たちの壁』だったんだ」。トランプ氏はメキシコ国境に近い田舎町も忘れていないと実感した。
1年前のあの日、連邦議会では大統領選でのバイデン氏勝利を確定させる上下両院の合同会議が開かれていた。ホワイトハウス前で演説したトランプ氏は「我々は戦う」「議事堂へ向かおう」と呼びかけた。グリフィンさんは「正しい決断がされるように『祈る』ため」に議事堂へ向かった…
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