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膨大な取材メモの中から、珠玉の一言を拾い上げる。社会問題を追い続けてきた反骨のルポライターが、これまでに出会い、感銘を受けた人々を振り返り、戦後史の一こまを切り取っていく。
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◆「スターもバイプレーヤーもありません。そこでいかに生きるかのために、日常があるんですから」
老成に無縁の果断な生き方
100歳で他界した映画監督・新藤兼人さん。98歳のとき、最後の映画「一枚のハガキ」を撮った。「今日はお祭りですが あなたがいらっしゃらないので 何の風情もありません」。中年兵たちが召集された兵舎の2段ベッド、上段の戦友に届いた、山村で留守を守る妻からのハガキだった。
広島県・呉の海軍兵舎での新藤2等兵の体験だ。戦友たちはくじ引きでフィリピンにむかう途上、米軍潜水艦に攻撃されて沈没。「ぼくがハガキを読んだことを妻に伝えてくれ」と頼まれたとは、フィクションのようだが、1枚のハガキを手にして戦時中の農村にでかけ、戦争に翻弄(ほんろう)される銃後の家族を描くセミ・ドキュメンタリー。孫が押す車いすで監督した。
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