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愛知リコール不正

愛知県知事の解職請求(リコール)を目指した運動。署名偽造に関与した疑いで、活動団体事務局長らが逮捕されました。

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「殿も知っているから」の言葉信じ リコール署名偽造、前社長の後悔

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リコール署名活動が始まり、愛知・大村知事の解職請求への協力を呼び掛ける名古屋市の河村たかし市長(左)と高須克弥氏=愛知県庁前で2020年8月25日午後0時26分、岡正勝撮影
リコール署名活動が始まり、愛知・大村知事の解職請求への協力を呼び掛ける名古屋市の河村たかし市長(左)と高須克弥氏=愛知県庁前で2020年8月25日午後0時26分、岡正勝撮影

 「ポスティングが一役買ったとなれば業界を盛り上げられるかもしれない」。そんな思いで関わった愛知県知事に対するリコール(解職請求)運動だったが、気付けば犯罪に加担し、後に引けなくなっていた。名古屋地裁で12日、有罪判決を受けた広告関連会社前社長、山口彬被告(39)は判決前、毎日新聞の取材に応じ、「今思えば、偽造を止められるタイミングは何度もあった。多くの人に迷惑をかけて本当に申し訳ないことをした」と後悔を口にした。

「仕事が欲しければプッシュするよ」

 きっかけは2020年6月、たまたま目にしたツイッターの投稿だった。愛知県の大村秀章知事へのリコール運動を成功させるためにポスティングの活用を呼びかける声が上がっていた。自身の会社が主力としていたポスティング事業は当時、新型コロナウイルスの感染拡大により、売り上げが激減。スタッフの生活を守るため、仕事がない中、給与を払っている状況で「タダでもいいから仕事が欲しかった」。

 世間が注目するリコールに協力することでポスティングに関心を持ってもらえると考え、同月下旬、署名活動団体「愛知100万人リコールの会」に連絡。署名集めのためのはがきの無償配布を申し出て、9月下旬までの3カ月間で約350万枚を愛知県内に配った。

 それから間もなく、リコールの会事務局長の田中孝博被告(60)と初めて会った。「元愛知県議」と書かれた名刺を笑顔で差し出し、リコール活動について熱弁。口癖のように「高須(克弥・リコールの会会長)さんとはツウツウだから」「社長、名古屋の仕事が欲しければ河村さんにプッシュするよ」と言い、断っても何度も繰り返したという。

 同年10月、スマートフォンに突然、田中被告から着信があった。「社長にしか頼めないことがある」。会って話を聞くと「リコールのスパイがいて愛知の近くでやると妨害されるので、遠くで(署名活動を)やりたい」と言い、人と場所の確保を持ちかけられた。田中被告の後援会員の中でリコール署名に同意している人の署名を代筆するという。常に陽気で、二言目には「社長、社長」と人懐っこく話す田中被告。少しよれたスーツを着て汗を流しながら走り回っている「気の良いおっちゃん」からの頼みに、軽い気持ちで応じた。

 しかし、話が進むうちに不信感が募っていく。後援会の会員数を尋ねると、「30万~40万人」と言った。何度も愛知県議選に立候補し、落選を繰り返していた田中被告。「それだけ会員がいれば既に議員になっているはず」と疑った。

 「大丈夫なんですか?」と聞くと、「前回の名古屋市議会のリコールでもやっていた。署名活動では当たり前のこと」「署名が足りなかった時のために用意するだけで、使わないかもしれない」などと答えたという。その後も何度も尋ねたが、「殿(高須氏)も知っているから大丈夫、大丈夫」と繰り返した。一連の言動についての真偽は不明だが、当時はその言葉を信じ、話を進めてしまった。

 説明に不安を感じ始めていた山口被告は10月19日、「当社では一切の責任を負わない」などと書いた発注書を作り、サインを求めた。「ちゅうちょしたり、断ったりしたらやめようと思っていた」。しかし、田中被告はその場ですんなりサイン。作業の前金として額面350…

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【愛知リコール不正】

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