連載

ひと

話題のひと、ニュースのひと、そのホットな人物をエピソードと経歴を交えて紹介します。

連載一覧

ひと

岸政彦さん=「リリアン」で第38回織田作之助賞

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷

岸政彦(きし・まさひこ)さん(54)

 「僕ね、大阪に恩があるんです。大阪にちなんだ賞がとれて、たぶん他の受賞者の100倍喜んでいると思います」。小説を出すたび文学賞候補に名を連ねるも、受賞には至らなかった。「うんざりしていた」中での“5度目の正直”に「大阪がくれた賞」としみじみ感謝する。

 沖縄の生活史を調査する社会学者。小説の題材は「個人的なもので僕の生活史に関わる」と語る。大学進学で大阪に暮らし始めたのは35年前。ジャズ演奏や日雇いで収入を得る時期もあった。「将来もお金もない。つらかったけど、大阪は何しても生きていける感じがあって、自由に生きていいと教えてくれた」

 岸作品には「あの時の地べたの感じ」が一作ごとに、まるで変奏曲のように繰り返される。受賞作もまた、大阪の下町に生きるベーシストの男と年上の女の、寄る辺ない時間がひたひたと流れる。「小説は当時の記憶を解体し、再構成している感じがある。書くことで自分のトラウマと向き合っているのかな」。最近、そんなふうに思う。

この記事は有料記事です。

残り284文字(全文723文字)

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る

ニュース特集