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岸政彦(きし・まさひこ)さん(54)
「僕ね、大阪に恩があるんです。大阪にちなんだ賞がとれて、たぶん他の受賞者の100倍喜んでいると思います」。小説を出すたび文学賞候補に名を連ねるも、受賞には至らなかった。「うんざりしていた」中での“5度目の正直”に「大阪がくれた賞」としみじみ感謝する。
沖縄の生活史を調査する社会学者。小説の題材は「個人的なもので僕の生活史に関わる」と語る。大学進学で大阪に暮らし始めたのは35年前。ジャズ演奏や日雇いで収入を得る時期もあった。「将来もお金もない。つらかったけど、大阪は何しても生きていける感じがあって、自由に生きていいと教えてくれた」
岸作品には「あの時の地べたの感じ」が一作ごとに、まるで変奏曲のように繰り返される。受賞作もまた、大阪の下町に生きるベーシストの男と年上の女の、寄る辺ない時間がひたひたと流れる。「小説は当時の記憶を解体し、再構成している感じがある。書くことで自分のトラウマと向き合っているのかな」。最近、そんなふうに思う。
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