なぜ今? ぬいぐるみや人形の「専門病院」が盛況な理由
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大切なぬいぐるみや思い入れのある人形を直し、きれいにしてほしい――。そんな願いをかなえる「専門医院」への依頼が増えている。その背景に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で魅力的な写真をアピールしたい「映(ば)え」狙いや、コロナ禍での「おうち時間」の増加という昨今の事情があるという。【小林遥、佐藤英里奈】
2021年12月初旬、東京都台東区にある「杜の都なつみクリニック」で、白衣姿の院長、箱崎菜摘美さん(35)が同じく白衣姿のスタッフと共に“治療”にあたっていた。
同院の患者は人ではなくぬいぐるみだ。16年に開業して以降、多くの注文を受けてきた。現在、1カ月に約100体を請け負い、予約待ちも発生している。
人気の秘密は、ぬいぐるみを人と同様に扱うこまやかなサービス。修理は「治療」、ぬいぐるみをきれいにするクリーニングは「エステ」、目の研磨は「レーシック」と呼ぶ。“患者”を預かる「入院中」は修理のプロセス画像をホームページ(HP)にアップし、注文主が確認できるようにしている。箱崎さんは「持ち主にとってぬいぐるみは、かけがえのない家族」と考えており、「内側の綿を抜いた状態を見たくない依頼主がいれば、画像のアップはしない」ほどの徹底ぶりだ。
箱崎さんは以前、洋裁の専門学校を経て洋服直しを請け負う仕事をしていた。そんな中で、カーテンやバッグの直し依頼もあり、ぬいぐるみを持ってくる顧客もいた。こうした注文に応じるうち、「修理してお返しした時、注文主が退院した家族を迎え入れるような笑顔をみせる」ことにやりがいを感じ、ぬいぐるみを専門にしたいと思い立ったという。
洗浄や生地交換、植毛などの治療をする際、最も大切にしているのはぬいぐるみの表情だ。箱崎さんによると、ぬいぐるみは持ち主の可愛がり方で表情が変わってくるという。その理由は持ち主がぬいぐるみに触れるほど、目の高さがずれたり顔の輪郭が変わったりするからだ。「注文の際は、新品の時の顔ではなく、『その子特有の顔』に直してほしいという依頼が多い」
都内在住のまいさん(51)=仮名=は今、スヌーピーのぬいぐるみ「ほわちゃん」と「ぼわちゃん」を入院させている。家に迎え入れて10年となる記念に、ぬいぐるみを家族として扱う同院のコンセプトに共感して依頼したという。2体は「人生の相棒」だといい、「今はさみしいけれど、きれいになって戻ってきてもらえたら」と退院を心待ちにしている。
同院に最近多い注文は、ぬいぐるみの中にプラスチック製の芯材を入れてほしいという要望だ。…
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