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持田叙子・評 『アスベストス』=佐伯一麦・著

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『アスベストス』
『アスベストス』

 (文藝春秋・1980円)

無言で逝った仲間、災厄に心を向ける

 この本からは穏やかな色と光がさす。ふしぎな温(ぬく)もりがただよう。

 たとえば異国の大きな窓がある。風邪ぎみの「彼」は起きて窓をひらく。微熱のある身に冷気がかぐわしい。古いホテルの内庭には「プラタナスの黄葉が照り輝いている」。

 風のさやぎ、晴れた空の透明、木の根元をあるく鳩(はと)、ナンキンハゼの三角の実。自然の細部をみる目がやさしい。青、グレー、白。草木染めをおもわせるアースカラーが四つの短篇小説を内側から照らす。平和な日常へのいつくしみがあふれる。だからこそ主題が浮き立つ。

 四篇をつらぬく主題は深く重くむごい。アスベストである。アスベストの繊維を吸って肺や胸膜にガンを発症して病み、ときに死にいたる人々の物語である。

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残り1755文字(全文2099文字)

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