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建設統計不正の報告書 「事なかれ」はここだけか

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 お役所仕事の弊害を凝縮したような問題である。

 国土交通省の「建設工事受注動態統計」を巡る不正で、第三者委員会が調査報告書をまとめた。

 データを無断で書き換える行為は2000年には始まり、13年からは一部事業者の受注額を二重に計上していたケースもあった。

 調査で浮き彫りになったのは、任期を無難にやり過ごせばいいという事なかれ主義的な体質だ。

 書き換えは担当者の間で引き継がれ、前例に従って漫然と続いていた。2年程度で異動を繰り返すため、問題意識を持った専門人材が育たなかった。

 部署内の情報共有が不十分で、長年にわたって不正が見過ごされたうえ、是正する機会があったにもかかわらず先送りしていた。

 18年に部内の会議で担当係長が説明したが、着任したばかりの上司がけげんな表情を見せると、「触れてはならないことに触れた」という雰囲気になり、それ以上踏み込むことはなかったという。

 厚生労働省の統計不正が発覚し、政府が19年に一斉点検を行った際には、担当係長が報告を提案した。書き換えに気づいた課長補佐がやめるよう訴えたこともある。しかし、いずれも上司が消極的で対応をしなかった。

 問題を把握しても責任追及を恐れて矮小(わいしょう)化や隠蔽(いんぺい)を図る。霞が関の悪弊に他ならない。

 重い腰をあげて手法の見直しに着手したのは、会計検査院の調査を察知したためだ。それでもきちんと公表せず、統計を所管する総務省や検査院には取り繕うような報告で済ませようとしていた。

 調査は年末年始を挟んで1カ月に満たず、十分に背景が解明されたとは言いがたい。役所体質という漠然とした理由だけでは、有効な再発防止策を打つことはできず、国民の信頼も取り戻せまい。

 統計業務を軽視し、現場任せにしていた幹部の責任は大きい。職務の目的や意義を組織で共有し、調査の態勢や手法などで問題があれば改善する責務を怠った。組織として事実関係を究明し、処分を行うべきだ。

 政府の一斉点検では見つけられなかった不正である。ウミを出し切るため、今一度すべての官庁でチェックを徹底する必要がある。

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