体罰する母との対峙、狂気…作家生活20年の吉村萬壱さんが初自伝

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自身の小説はほぼ例外なく母に対するアンチテーゼだと語る作家の吉村萬壱さん=オンライン会議システム「Zoom」より
自身の小説はほぼ例外なく母に対するアンチテーゼだと語る作家の吉村萬壱さん=オンライン会議システム「Zoom」より

 虚飾と矛盾にまみれた人間世界をえぐるように描いてきた吉村萬壱さん(60)。作家デビュー20年の昨年刊行された「哲学の蠅(はえ)」(創元社)は一筋縄ではいかないエッセー集だ。少年期より哲学や文学に傾倒し、「その周りを飛んで摘(つ)まみ食いする蠅」を自称する著者が、母親との関係や「書くこと」への偏愛を赤裸々に語る。初の自伝はそれ自体、えたいのしれない人間像に迫る哲学書であり、濃厚な文学論になっている。

 愚行、嫉妬、狂気……。目次を開けば、二字熟語で統一された28の小題が怪しげなにおいをまき散らす。冒頭で打ち明けられるのは幼い頃、母から受けた理不尽な体罰の記憶だ。「子どもながらに、自分ではどうしようもない現実をどんと突きつけられた感じがあった」と吉村さん。体の成長とともに身体的な暴力はなくなるが、一貫して「我が子より世間体を守る」軽薄さに苦痛を強いられた。でもね、と続ける。「心の底から母が嫌いというわけでもない。僕自身、母の望むように振る舞うところもあった。反発していた二つの磁石が突如反転してくっつくように、いつまでも距離の取り方が分からない。そういう親子関係でした」

 暴力的で不条理な現実と非力でしたたかな私。この感覚をもたらした母との関係は吉村文学の原点になった。「家庭にダイレクトに世間を持ち込む母がいて、僕には小さい頃から世間の風が当たっていた。この世界の居心地の悪さみたいなものが自分の文学の中心にはある」…

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