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性的指向や性自認に苦しむ人たちのことを、私たちはどれだけ分かっているだろうか。社会の理解が進んでいないために差別や偏見にさらされる。好奇のまなざしを向けられ、誰にも相談できずに孤立する。周囲からいじめや嫌がらせを受けて思い詰め、自殺へと向かってしまう人もいる現実を。
そんな人たちに寄り添い、安心してもらえる場にしたい。2018年に大阪府守口市に生まれた性善寺(しょうぜんじ)。住職の柴谷宗叔(そうしゅく)さん(67)は「LGBTなど性的少数者が集える寺」を目指している。
「男性記者」から「尼僧」に きっかけは阪神大震災
自身も、幼少期から心と体の性が一致しない性同一性障害に苦しんだ。戸籍上は男性だったが、女性を自認。親にも隠して生きてきた。気持ちが大きく変わったのは、17日に発生から27年が経過した阪神大震災がきっかけだった。
当時は新聞記者の仕事をし、神戸市で1人暮らし。たまたま大阪の実家に泊まっていて難を逃れた。1週間後に神戸に戻ると、自宅は全壊していた。町内だけで50人以上が命を落とした。自分が行方不明者の一人になっていることを知り、役所に生存を伝えた。
がれきの中から、ズタズタになった西国三十三所霊場巡りの納経帳が出てきた。判を集める楽しさに始まり、祈りを深め、四国遍路をするきっかけをくれた宝物だった。「死んでいてもおかしくなかったのに。納経帳が身代わりになり、仏様が命を守ってくれた」と思った。そして、心に決めた。「これからは偽りの人生はやめて、自分らしく生きよう」。この後、15年かかったが、手術を受けて男性から女性に戸籍を変更。「男性記者」から「尼僧」になった。
寺名は仏教における「悉有仏性(しつうぶっしょう)」という性善説から付けた。誰でも仏様になれる素質を持つという教えだ。「多様な性は悪いことではない。善である」という信念を込めた。
性的少数者が安心して来られる場所に
毎月最終日曜日は予約なしに誰でも寺に立ち寄れる「縁日」の日。性的少数者の相談にも応じる。昨年末の縁日を訪ねた。
住宅街にある2階建ての寺は民家のようなこぢんまりしたたたずまい。入り口に「みんなの寺」と表示があり、多様性を象徴するレインボーカラーで彩られたステッカーが掲げられている。中央には合掌のマークが。柴谷さんは「性的少数者が安心して来られる場所であることを示しています」。
刻限が迫った。一人、また一人。玄関を開け、着席。柴谷さんの読経が始まり、護摩がたかれた。太鼓がたたかれ、鉦(かね)が鳴る。高く炎が上がった。「コロナ退散」「日常回復」。願いごとが読み上げられた。
法話後の相談は随時。参加者はどんな悩みを抱えているのか。「自由に聞いて」。柴谷さんからは了解を得ていたが、不用意なことを聞いて傷つけてしまうのではとためらわれ、突っ込んだ質問ができない。聞けたのは、何回目の参加か、居心地はいいか、くらいだった。
1月初め、柴谷さんにこのことを伝えると、…
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