吉村萬壱さんがエッセー集刊行 世界と対峙してきた歴史 母との関係、「正義」への疑問
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虚飾と矛盾にまみれた人間世界をえぐるように描いてきた吉村萬壱さん(60)。作家デビュー20年の昨年刊行された「哲学の蠅(はえ)」(創元社)は一筋縄ではいかないエッセー集だ。少年期より哲学や文学に傾倒し、「その周りを飛んで摘(つ)まみ食いする蠅」を自称する著者が、母親との関係や「書くこと」への偏愛を赤裸々に語る。初の自伝はそれ自体、えたいのしれない人間像に迫る哲学書であり、濃厚な文学論になっている。
冒頭で打ち明けられるのは幼い頃、母から受けた理不尽な体罰の記憶だ。「子どもながらに、自分ではどうしようもない現実を突きつけられた感じがあった」と吉村さん。体の成長とともに身体的な暴力はなくなるが、一貫して「我が子より世間体を守る」軽薄さに苦痛を強いられた。でもね、と続ける。「僕自身、母の望むように振る舞うところもあった。反発していた二つの磁石が突如反転してくっつくように、いつまでも距離の取り方が…
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