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脳に障害が起こると、自分自身に対し疑心暗鬼となる。カトリーヌ・アルレー(1924~)の恐怖ミステリー小説さながら、己の感性も信用できなくなる。あんなに好きだった猫が今では気味悪い。
脳の後遺症のなかでいちばん辛かったのは体の麻痺(まひ)ではなく、自分の頭が自分のものではないような感覚に陥ること。いろんな記憶が錯綜(さくそう)し不意に出てきて、どの出来事が先だったか後だったかが分からなくなると、脳梗塞(こうそく)や脳出血で苦しんだ人が言っている。集中しようとすればするほど思考がとりとめなく混乱するとも。
くも膜下出血から生還した作家の伊集院静氏いわく、脳の病を患うことがこんなに大変だとは思わなかった、記憶をよみがえらせる装置が鈍くなり、何でもないことが思い出せなくなる。事故に遭って後遺症に苦しんだ北野武に「辛抱だよ、あせっちゃ駄目だよ、急に立ち上がるみたいにシャッシャッシャって繋がっていくよ」と言われたそうだが、どんな言葉も初めて聞いたように感じられたりするから、あらゆる語彙(ごい)を新しい意味…
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