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膨大な同業者が退場していった中で、彼らが日々を重ねられた理由は何か。幸運や巡り合わせというだけでは見過ごしてしまう細部があるに違いない。その知恵を広く共有すべく、じっくり語っていただいた。
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<since 1916>
2000年11月5日。当時、学術出版の老舗・雄山閣のベテラン編集者だった宮島了誠さん(75)はいつも通り、東京都千代田区富士見の編集室に出社した。
「捏造(ねつぞう)?」。知り合いの研究者から電話を受けた彼は近くのJR飯田橋駅の売店に走り、毎日新聞朝刊を買った。「旧石器発掘ねつ造」の見出し。70万年前の前期旧石器文化が日本にあったことを証明したと発表した民間の研究者が、実際には石器を自分で埋め、自ら発見したかのように装っていたことを暴くスクープだった。2カ月後に出す「季刊考古学」第74号の特集は「前期旧石器文化」で、執筆予定者の中には捏造を認めた本人の名前もあった。
「次号は出せないかもしれないな」。社内に危機感が漂ったが、担当編集者の宮島さんは冷静だった。季刊考古学の創刊は1982年。立ち上げから手がけた彼には考古学研究者の人脈があった。「『前期旧石器文化』のままでいい。この事件をどう思うか、全国の先生たちの率直な声を載せればいい」。親交のある大学教授の言葉が、背中を押した。編集室の電話にかじりつき、インタビューを取った。
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