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「漫画でアジアへの野球普及を」 元社会人投手が抱く大きな夢

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GOOD・JOBが手掛けるモーションコミック「DREAM PARK」の原作表紙=同社提供 拡大
GOOD・JOBが手掛けるモーションコミック「DREAM PARK」の原作表紙=同社提供

 男女の硬式野球チームを運営する株式会社「GOOD・JOB」(本社・横浜市戸塚区)。2021年は両チームが大きく前進した。18年に日本野球連盟加盟のクラブチームとしてスタートした男子は、都市対抗大会で初めて山梨県1次予選を突破し、西関東2次予選に進出した。横浜市を本拠地に20年創部の女子は、全日本選手権初出場を果たした。

 野球の熱さ、楽しさを多くの人と共有したい――と理念を掲げる会社が新たに手掛けようとしているのが、漫画を通したアジア諸国への競技の普及だ。

2022年の練習始めに集まったGOOD・JOB女子硬式野球部のメンバーと、社長の瀧優介さん(後列右)=東京都調布市の調布基地跡地運動広場で2022年1月18日午前9時45分、藤倉聡子撮影 拡大
2022年の練習始めに集まったGOOD・JOB女子硬式野球部のメンバーと、社長の瀧優介さん(後列右)=東京都調布市の調布基地跡地運動広場で2022年1月18日午前9時45分、藤倉聡子撮影

 インドネシアをはじめ東南アジア各国との親善試合開催や指導の実績がある東都大学準硬式野球連盟の協力を得て、各国語に翻訳したウェブ漫画を発信する計画だ。タイトルは「DREAM PARK」。幼い頃に交通事故に遭って脚を負傷した主人公が野球と出合い、仲間とともに希望を見いだす――というストーリー。競技の仕組みやルール、練習方法なども分かりやすく紹介するという。

 漫画独特のコマ割りに慣れていない人々にも伝わりやすいように、原作の漫画のコマを切り出して動画に加工し、効果音も入れて「モーションコミック」に仕上げる。投手として女子日本代表で活躍し、現在はGOOD・JOB女子硬式野球部でコーチを務める吉井萌美さん(28)が動画化の作業を担当する。

 ストーリーは単行本1冊分のボリュームになる見込みで、冒頭の2話分を3月中旬に公開し、クラウドファンディングで支援を募る予定。これを制作費などに充て、東南アジア各国へは動画投稿サイトで無料配信する。GOOD・JOB社長の瀧優介さん(38)は、「漫画の親しみやすさを生かして、野球が盛んでない地域の人々を、野球の入り口にいざなえれば」と夢を語る。

 GOOD・JOBは瀧さんの父で、「DREAM PARK」の原作も担当した漫画作家の滝直毅さん(61)が05年に起こした会社。瀧さんが17年に承継し、野球部を運営するスポーツ・エンタメ事業▽配送業務などを行うサービス事業▽滝さんが中心の漫画事業――を柱に再出発した。掲げるのは「スポーツとビジネスの二刀流」。若者がアスリートとして競技に打ち込みながら、仕事の技能も習得し、磨くことだ。

2010年都市対抗野球で力投する三菱重工横浜時代の瀧優介さん=東京ドームで2010年9月3日、竹内紀臣撮影 拡大
2010年都市対抗野球で力投する三菱重工横浜時代の瀧優介さん=東京ドームで2010年9月3日、竹内紀臣撮影

 野球部の選手の多くはGOOD・JOBの社員として、配送やウェブ制作の仕事に就いている。競技を引退した後の「セカンドキャリア」の前に、競技と仕事を両立させる「デュアルキャリア」を強調する背景には、投手だった瀧さん自身の経験がある。

 東京・日大三高で甲子園を経験し、01年に日大に進学するも、間もなく退部。米大リーグへの憧れから、マーリンズ傘下のマイナーチームの入団テストを受け、フロリダ州のルーキーリーグで1年半プレーした。

 最後の年、契約を更新しないと告げられた時のことが、最も心に残っているという。「『同じぐらいの成績の者が残り、なぜ俺が首を切られるのか』と、チーム関係者に詰め寄ったのです」。相手には、ずばり指摘された。「あなたは言葉を覚えようとせず、人間関係も希薄だったからだ」

 ルーキーリーグはマイナー最下部の組織。「単に野球選手を養成するのではなく、人間を育てる場であることを自分は理解していなかった。人から選んでもらえる者であることも、人生では大事だと気づかされた」と振り返る。その後、日本ウェルネススポーツ専門学校を経て05年2月に三菱重工横浜クラブ(08年7月から三菱重工横浜。三菱パワーなど名称変更とチーム統合を経て現三菱重工East)に加わった。

GOOD・JOB男子硬式野球部=同社提供 拡大
GOOD・JOB男子硬式野球部=同社提供

 子どもの頃からの夢だったプロ入りはかなわなかったが、09年の日本選手権4強、10年の都市対抗4強などに貢献し、10年は社会人ベストナインの最終選考まで残った。12年限りで現役を引退。「これまでの経験を生かして、サラリーマンとしての経験を積もう」と30歳で三菱重工業の関連会社に転勤して社業に専念した時、新たな気づきがあった。

 05年の入社時、野球部はクラブチームとして活動していて、週2日は終日勤務、週3日は午前中に練習して午後は勤務と、ほぼ毎日が仕事だった。その後、野球部が企業チームに復帰すると練習環境は格段に良くなり、反比例して社業と関わる時間は減っていった。

 選手生活が充実していた分、「名刺交換やメール送付の作法さえ身についていなかった」。幸いにも営業の仕事は向いていると思えた。一方で、専門化が進み、日々新たな情報が更新される仕事の現場では、「元気で礼儀正しい体育会の長所を前面に出して営業する、それが通用する時代ではない」と痛感した。

 だから、4年間の会社員生活の後、代表となったGOOD・JOBでは、若い選手たちの人材育成を手掛けたいと考えた。選手は通常、社員として採用する。練習拠点は東京都調布市に確保。大手運送会社と提携した配送業務や、動画制作、別会社を起こしてのホームページ制作受託業務など、選手の仕事を創出するのは、瀧さんの重要な任務だ。「選手が、野球を続けながら、次の一歩を踏み出すためのスキルを身につける。そういうチャンスを与えられる会社でありたい」という。

 漫画を通して海外に野球を発信しようというアイデアも、こうして仕事を開拓する中で得た縁から生まれた。クラブ野球も女子野球も、決してメジャーなスポーツではないが、「だからこその熱量、楽しさを、中小企業として応援したい」という瀧さん。その思いも、アジア各国に届くよう願っている。【藤倉聡子】

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