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不信感ばかりの政策決定過程 知恵を枯渇させた「威圧」

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インタビューに答える作家の平野啓一郎さん=東京都千代田区で2021年12月14日、内藤絵美撮影
インタビューに答える作家の平野啓一郎さん=東京都千代田区で2021年12月14日、内藤絵美撮影

 新型コロナウイルスが国内で初めて確認されてから2年。世界中で変異株「オミクロン株」が広がり、コロナで社会の経済格差はさらに拡大している。芥川賞作家の平野啓一郎さん(46)にこれまでの日本のコロナ対策について尋ねると、科学的根拠のない政策決定への不信感が常にあったという。「メディアの責任も大きい」と批判する真意を語ってもらった。【聞き手・林奈緒美】

科学的根拠ない政策決定

 ――日本のこの2年間の新型コロナ対策をどう評価しますか。

 ◆ウイルスが広がって世界が同じ状況を経験したことで、日本の対応のお粗末さが目立ちました。これは、数字的な結果からだけで論じるべきではないと思います。新型コロナでは特に科学的な対処が求められ、専門家会議や分科会が設立されましたが、科学の独立性と政策決定のプロセスは非常に不透明でした。よくわからない圧力によって、専門家の意見がゆがめられているのではないかという不信感が常にありました。

 例えば、2020年春に安倍政権下で全世帯に配布された布マスク「アベノマスク」がそれです。一部の側近による「マスクを配りさえすれば、国民の不安はぱっと消える」という広告代理店的な発想で政策決定されたことが、何社もの取材で明らかになっています。当時から布マスクは不織布に比べて感染予防の効果が低いことは分かっていましたし、洗って繰り返し使えば、当然マスクも劣化します。それだけの予算があれば不織布マスクの調達や増産ができたはずですが、マスクが市場に余り始めてからもアベノマスクの配布が続けられました。今になって「当時はあの方法しかなかった」という肯定論が出てきていますが、歴史の改ざんでしょう。

 オリンピックの開催についても、強行した際のリスクのシナリオやシミュレーションはなく、専門家の意見を無視した首相の独断に基づくものでした。結果、第5波では医療崩壊が起こりました。原則的に、科学は一定の独立性を保つべきで、最終的には政府が政策決定するにせよ、その過程には透明性が求められ、判断は合理的であるべきです。政治と科学の関係が危うくなったことが大きな問題でした。

 「GoToキャンペーン」事業は「経済を回せ」という非常に粗雑な発想でしたし、五輪の「人類がコロナに打ち勝った証し」などというのは妄言の類いでした。科学的な根拠を基に、政府が国民に対して十分な説明を行うという考えは全くありませんでした。

 日本やアジアでは、新型コロナの被害は欧米に比べて相対的に小さく済みました。「ファクターX」などと呼ばれましたが、ワクチン接種率やマスク着用率も含め、何が感染抑制に効果的だったかは今後も検証されるべきでしょう。第5波の収束には、よくわからない「幸運」もあったと感じられます。ワクチン接種の順番についても、もっと平等なやり方があったはずです。途中から大企業主導の職域接種が始まり、専門家の中にも「どうせ打つのだから」と支持する人たちもいましたが、その影響で後回しにされ、数カ月のタイムラグの間に感染して亡くなった人もいます。あるべき公平性を専門家が率先して損なう発言をしていたことも検証されるべきでしょう。

不誠実な「専門家」

 ――新型コロナでは専門家会議などが全国に設立され、新聞などのメディアに専門家が登場する機会が増えました。どのように見ていましたか。

 ◆新型コロナは初めて経験することなので、初期のころは知見やデータが集まっていません。間違ったこともあったでしょうが、「当時の自分の発言はここが間違っていた」と、後になって訂正した専門家をほとんど知りません。特に、…

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