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世界遺産と佐渡金山 文化の政治利用を危ぶむ

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 新潟県にある「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録を目指し、政府が推薦を決めた。

 17世紀に世界最大級の金の産出量を誇った二つの鉱山遺跡で構成される。金の採取から精錬まで手作業で行われていた時代の遺跡は世界的にも珍しい。

 政府は当初、今年の推薦を見送る方針だった。「多くの朝鮮人労働者が働かされた事実をないがしろにしている」という韓国の反発を踏まえた判断だ。

 しかし安倍晋三元首相ら自民党保守派から「弱腰」との批判を受けると、岸田文雄首相が方針を転換した。7月の参院選を念頭に保守票を意識したのだろう。

 韓国の反発の背景には、2015年に登録された「明治日本の産業革命遺産」を巡る経緯がある。

 日本は登録に際し、戦時中に朝鮮人労働者が意に反して働かされたことを説明すると世界遺産委員会で約束していた。だが委員会は昨年、日本が約束を守っていないと「強い遺憾」を表明する決議を採択した。

 こうした経緯を考えれば、今回の推薦に先立ち、韓国の理解を得るよう努力するのは当然だった。

 しかも日本は近年、登録に当たっては関係国の理解が不可欠だと主張してきた。今回の推薦は、これに矛盾している。

 「世界の記憶」(世界記憶遺産)を巡っては昨年、関係国から異議が申し立てられれば登録に向けた手続きを中断する制度が導入された。中国の「南京大虐殺の記録」登録に反発した日本が働きかけたものだ。

 文化遺産についても、推薦書の提出前に当事者間で対話すべきだという作業指針が採択されている。そうした手順を踏まずに手続きを進め、結果として登録が危ぶまれる状況になれば、地元の思いを裏切ることにもなる。

 世界遺産は人類が共有すべき普遍的価値のある文化財を保護する仕組みだ。安倍氏は「(韓国から)歴史戦を挑まれている」とフェイスブックに書き込んだが、歴史認識に関する摩擦を持ち込むべきではない。

 近隣国との対決姿勢を演出する思惑で文化を政治利用するような振る舞いは、むしろ国益を損ねるものである。

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