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トップに聞く 創造性豊かなテクノロジストを育成 三条市立大 アハメド・シャハリアル学長

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アハメド・シャハリアル 1966年、バングラデシュ生まれ。2000年に東京電機大で博士号を取得。同大学専任講師を経て、03年、新潟産業大学助教授。15年、沖縄科学技術大学院大学で技術開発イノベーションセンター技術開発スペシャリストなどを務め、21年4月、三条市立大学学長に就任。専門は応用システム工学。 拡大
アハメド・シャハリアル 1966年、バングラデシュ生まれ。2000年に東京電機大で博士号を取得。同大学専任講師を経て、03年、新潟産業大学助教授。15年、沖縄科学技術大学院大学で技術開発イノベーションセンター技術開発スペシャリストなどを務め、21年4月、三条市立大学学長に就任。専門は応用システム工学。

 新潟県三条市は、隣接の燕市とともに自動車や建設機械関連部品にはじまり、包丁や工具などの日用品まで幅広い金属加工分野の産業が集積している地域として国内外に知られている。ところが近年、技術の継承や後継者難という課題が顕在化していた。そこで、優秀な若者を地元企業に輩出することを目指し、三条市立大学が昨年4月に開校した。どのような人材育成や産学連携を目指すのか、バングラデシュ出身で、わが国に留学して以来、国内の大学で研究を続けてきた、アハメド・シャハリアル学長に聞いた。【中根正義】

産学連携による実習を学びの中心に据え

 ――三条市の人口は約10万人で、決して人口が多くはない中、市立大学として開学した大学ですが、どんな特徴があるのでしょうか。シャハリアル学長は、大学の構想段階からかかわったそうですね。

 今までの教育機関にはない、広範囲の工学知識と社会科学を融合させた授業と、金属加工関連の工場が集積しているエリアの特色を生かした産学連携による実習を学びの中心に据えています。知識を使いこなすには、経験が必要です。また、経験をさらに生かすためには知識が必要です。そうしたループによって4年間の学びを深めることで、イノベーション(技術革新)を生み出す人材を育成していきたいと考えています。

 特徴は、大きく分けて二つあります。幅広い分野の知識を身につけるためのカリキュラムと、燕三条地域の企業での学習で見えてきた自身の課題を学内で学び、学内で学んだ知識を実社会の課題解決で発揮するという反復学習です。自然科学と社会科学両面の広い知識に企業現場の実習を組み合わせることによって、イノベーションを生む創造力が学生に醸成されることを期待しています。

 専門性では既存の大学とは勝負できないかもしれませんが、知識と経験をしっかりと組み合わせた深い学びは、イノベーションを起こす人間、もしくは、どんな事態が起きても、即座に対応できる人間に成長させることができると思っています。

 ――非常にユニークな学びですね。

 高校生の半分以上が大学に入学する時代になったのに、全国一律に似たような授業を行うのは、少し違うのではないでしょうか。都市部と地方の大学で、それぞれ役割が違うことを考えれば、地方では地域の魅力やリソースをどうカリキュラムに盛り込んでいくかが鍵になります。そこで、本学では、地域の人々や企業に協力をお願いしています。

 本学では、1年生の夏から学生全員に複数の企業見学をしてもらいます。10社ほどの企業などを回って幅広い分野の業種を学びます。2年生からは、企業を見学した際に分からなかった部分を授業でより深く学び、秋学期には再び企業で、2週間の実習を計3社でそれぞれ行い、実務の経験を積んでいきます。3年生からは、企業での体験を生かした商品企画やマネジメントの授業が始まります。ここでは実習先を1社に絞り、16週間にわたり企業で実習をしながら、商品やサービスに関わる企画、技術・製品開発などを実際の現場で学んでいきます。そして、4年生では、卒業研究として、企業との共同研究や開発プロジェクトに取り組み、社会に出ていきます。このような学びを重ねることで、「実用化までのプロセスを知る技術者」の養成を目指します。

工学だけでなく経営やマネジメントも学ぶ新しいスタイルの工学部

 ――なぜ、このような学びが必要だと考えられたのでしょうか。

 かつてはさまざまな産業が分化していたため、一つの分野に深い知識を持つ専門家が必要とされてきました。しかし、これからの産業は、電気電子工学や材料学などあらゆる工学分野の総力を結集して、より高度なモノを作っていく時代なので、これまでの学びではイノベーションを起こすことはできません。

 工学知識だけではなく、経営とマネジメントも学びます。自然科学と社会科学の両面、そして、産学連携実習による実践と経験を積んだ学生は、市場の分析、商品やサービスの企画に加え、技術開発を経て実用的な商品を生み出す過程全体を俯瞰(ふかん)することができる人間へと成長していきます。社会で何が必要とされているのか、どのような企画が実現可能なのかを把握できる人間、つまり創造性を持った人材は、今後、科学技術がめまぐるしく発展し、AI(人工知能)の登場により工業や労働の変化が予想される未来においても、社会から常に求められる人材になるでしょう。

 ――指導するための教員は実務家教員も多く、多士済々です。また、大学に協力する会社も100社を超えたそうですね。

 指導する教員も、学問分野の境界を超えられるような考え方を持つ人を集めています。イノベーションは、常に異なる分野が重なり合う場所で生まれます。本学は小さな大学です。だからこそ、専門分野の垣根をなくし、教員同士がつながっていく共同プロジェクトを立ち上げ、そこに学生も入ってもらえるようにしたいですね。

 開学当初、協力してくださる企業は92社でしたが、現在は120社(2022年1月現在)になりました。ただ、その協力の仕方は、学生と企業の双方にメリットがあるものでなければ長続きしません。企業にとっては、学生と研究機関としての大学の知識が入ることで、企業にも新たなアイデアや変革が生み出されることでしょう。企業が積極的に大学に協力するようになってこそ、本来の意味での地域密着型の大学といえます。それだけに、我々も、大学のリソースを積極的に地元の企業に提供していきたいと考えます。

 この地域は日本有数の産業集積地で、家を一歩出たら工場があるという環境にあります。しかも、生産される物は技術力が高く、多様性に富んでいます。これほど学びの場がたくさんあるところは、あまりないのではないでしょうか。本学では、企業としっかりタッグを組むことで、学生に企業現場での経験をしっかり積んでもらい、知識と経験を融合させていければと考えています。

 私たちは、キャンパスの外にいる地域の実務系の人たちとの融合を目指しています。大学には、私も含めて研究経験、教育経験、それに実務経験があるメンバーがそろっています。地元企業との融合により、唯一無二の大学になりますし、そのことで、他地域からの学生を呼び込むこともできるでしょうし、地方大学のモデルにもなるのではないでしょうか。

 ――シャハリアル学長の来日は、1988年のことになります。日本の高等教育機関で教育や研究に携わられて、この大学でどんなことを目指しますか。

 子どもの頃に見た日本のエンジニアの仕事ぶりに憧れ、拓殖大学工学部で心臓の人工弁について学び、東京電機大学で博士号を取得したのですが、そこで技術の実用化の過程に興味を持ったのです。新潟との関わりは2003年に新潟産業大学の助教授に就いたのが始まりです。医用工学から福祉分野向けなど研究分野も広げ、産学連携で取り組んだのですが、地域活性化に向けた人材育成を研究する中で、技術のマネジメントへの興味が出てきて、再度大学院でMOT(Management of Technology、技術経営)を学びました。沖縄科学技術大学院大学では、そうした実用化に向けての研究に取り組んできました。

 自らの経験も踏まえ、本学の育成人材像は、創造性豊かなテクノロジストを掲げました。工学と技術のマネジメントを融合したカリキュラムで学ぶ新しいスタイルの工学部で、イノベーションを起こし、これからの高度なものづくりをリードする人材を育成したい。そして、この地域の地域資源を最大限に生かした知の拠点として、日本、世界のものづくりの持続的発展に貢献することが本学の使命だと考えています。

地域全体をキャンパスに創造性豊かな人材を育成

 ――具体的には、どのような連携を考えていますか。

 地元には約4000社の企業があります。今はなんとなく仕事が回っていますが、後継者難でもあり、将来には不安を持っている経営者もいます。そこで、我々がこの地域の将来のあるべき姿を提示することが大切だと思います。それを示して教育や研究をしましょう、と。そこで人も育つし、新しいイノベーションが生まれると思うのです。

 地域と連携するので、地域の企業が持っている経験と私たちの大学が持っている知識を融合させるのです。知の拠点である大学で人づくりをして、ものづくりができる人材を育て、そのプロセスで発生するテクノロジーと人で、この地域のサステナビリティーに貢献していきたい。

 我々にとっては、地域全体がキャンパスです。私たちが地域で、ネクサス(つながり)を作ることができれば、それが地域づくりになります。そして、創造性豊かなテクノロジストを育てるような場、プラットフォームができれば、この地域のイノベーションエコシステムができます。日本の場合は自動車産業を見ていると分かりますが、系列による垂直統合です。面として、横のつながりがない。同じ業種ではなく、異業種でのつながりが地域で出てくると、新たなイノベーションが生まれます。その場を生むのが我々、三条市立大学だと思っています。

 本学は、地域全体をキャンパスとして、この地に蓄積された財産から学び、多様な技術・マネジメント教育も併せて行い、それらの要素を融合して新たな「価値」を創造できる人材「創造性豊かなテクノロジスト」を育成していきます。教員・研究者、学生、企業の方など専門分野を問わず多様な考え方に触れ、自然な交流の中でネットワークを築いてコラボレートできるよう、キャンパスの中にも随所に自由空間を配置しています。それによりネクサスが生まれ、創造力を高め、新たな価値を生み出すサポートをしていきたいと考えています。企業の財産となり得る人材を輩出することで、個々の企業価値を高め、この地のものづくりの持続的発展に貢献したいと考えています。

2021年4月に開校した三条市立大学=2021年10月8日、中根正義撮影
2021年4月に開校した三条市立大学=2021年10月8日、中根正義撮影

キャンパス

〒955-0091

新潟県三条市上須頃1341

学生数

82人(2021年4月現在)

学部

工学部(技術・経営工学科)

ホームページ

https://www.sanjo-u.ac.jp/

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