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埼玉の立てこもり事件 医療従事者守るためには

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 在宅医療に献身的に取り組んでいた医師が、命を奪われる理不尽な事件が起きてしまった。

 埼玉県ふじみ野市の民家で、医師の鈴木純一さんが散弾銃で殺害された。一緒にいた理学療法士も重傷を負った。この家に住む渡辺宏容疑者が、11時間にわたって立てこもった末に逮捕された。

 渡辺容疑者は92歳の母親と同居しており、数年前から鈴木さんの訪問診療を受けていた。

 事件前日に母親が病死し、「焼香に来てほしい」と鈴木さんらを呼び出した。蘇生措置を依頼したが断られ、発砲したとされる。

 県警の調べに「母が死んでしまい、この先いいことはないと思った。自殺しようと思い、先生やクリニックの人を殺そうと考えた」と供述しているという。

 なぜ、こうした悲劇に至ったのか、警察は捜査を尽くして解明する必要がある。

 鈴木さんは在宅の患者約300人を診ていた。本人の生きがいや家族の要望に配慮し、災害時に患者の命を守る訓練に取り組むなど、地域での信頼は厚かった。

 昨夏の新型コロナウイルスの感染「第5波」では、多くの地元住民の訪問診療に当たった。

 一方、渡辺容疑者は母親の診療方針を巡って、ここ1年で十数回、地元の医師会と電話でやりとりをしていた。

 過去には、利用していた訪問介護サービスのスタッフに、暴言を吐くことがあった。病院に付き添った際、他の患者より先に母親を診療するよう求め、怒鳴る姿も見受けられていた。

 医療従事者が患者やその家族から暴力を振るわれたり、暴言を浴びせられたりするトラブルは、近年、問題になっている。

 病院であれば複数の職員で対応することが可能だ。だが、少人数で訪問する在宅診療では対処が難しい。不測の事態も起きかねない。訪問介護も事情は同じだ。

 約3000人の訪問看護師を対象とした調査では、身体的な暴力を受けたことがあると答えた人は45%に上っている。

 高齢化が進み、在宅医療の重要性は増している。社会全体で、医療従事者の安全を守っていく方策を考える必要がある。現場任せにしてはならない。

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