「痛くてもやむを得ない」 収容者「制圧」の入管職員の証言
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東京入国管理局(現・東京出入国在留管理局、東京都港区)に収容されていた日系ブラジル人のアンドレ・クスノキさん(35)が、職員から暴行を受けてけがをしたとして国に損害賠償を求めた裁判。昨年12月に東京地裁で行われた口頭弁論では、クスノキさんを押さえ込む「制圧」に加わった入国警備官が出廷し、証言した。入管職員の証言が公開されるケースは珍しい。自らの行為の正当性を主張したが、過去には過剰な制圧行為が裁判で違法と判断されたケースも複数ある。後編では、入国警備官の証言から、職員に暴行されたという訴訟が相次ぐ背景を考える。【上東麻子/デジタル報道センター】(前編はこちら)
クスノキさんは2018年10月5日、収容中の東京入管から茨城県牛久市にある東日本入国管理センターへの移送を告げられた。友人たちが面会に来られなくなることや同センターで自殺者が出たと聞いていたことから、クスノキさんは移送を望まないと伝え、理由を尋ねたり協議を求めたりしたが、入管側は応じなかった。その4日後、クスノキさんの居室に複数の職員が入ってきた。トイレに立てこもっていたクスノキさんを引きずり出して床に倒して押さえ込み、担ぎ上げて別室に運び、床に下ろした後もマットの上で「制圧」を続けた。
クスノキさんは移送された翌日、同センター内の診療室で医師の診察を受けて「左腱板(けんばん)不全損傷」と診断された他、現在も肩に痛みを抱えている。
これに対して国側は「正当な職務行為だった」などと主張している。
「安全、確実、速やかに業務を遂行」
昨年12月2日の口頭弁論に国側の証人として出廷したのは、この制圧に加わった入国警備官の男性だ。毎日新聞がクスノキさんの代理人弁護士から提供を受けた約20分間のビデオ映像の後半、クスノキさんの頭に体重をかけて押さえ続けていた。
大柄で短髪の入国警備官の男性は証人席に立ち、はっきりした口調で証言を始めた。尋問は2時間近くに及んだ。国側の代理人から移送の際に留意する点について問われた入国警備官は、「安全、確実、速やかに業務を遂行すること」と述べた。また、クスノキさんが移送に抵抗したため、本人や入国警備官がけがをする恐れがあり、他の収容者も声を上げていたことから、このままだと「集団騒擾(そうじょう)などが発生する恐れがありました」と制圧の理由を説明した。
制圧の方法については「入国警備官であれば、このように制圧するように教わっている」などと繰り返し、「指揮官」の指示に従って行うと正当性を主張した。
しかし、この入国警備官は、クスノキさんの体からいったん離れたが、他の入国警備官が「振りほどかれている様子があった」として、指揮官の指示がないままクスノキさんの頭を押さえつけていた。本人の証言によれば、制圧業務に関わることが多く、「私ならできると思い、代わりました」と語った。
証言によると、この入国警備官の身長は180センチ、体重は92キロ。当時と体形はほぼ変わっていないという。映像を見ると全身の体重をかけているようにも見える。
裁判官も指揮官の指示がなかったにもかかわらず、再び制圧に加わったことや安全性について指摘し、問題がないのかなどと尋ねた。警備官は「急を要する状況」と自己判断したこと、制圧の方法は訓練を受けていると主張した。
「けがの発生防ぐため」 制圧の正当性を主張
映像を見ると、制圧を受けているクスノキさんは苦痛に顔をゆがめ、何度も「痛い、痛い」と叫んでいる。そのことについて問われると、入国警備官は「けがの発生を防ぐため」などと繰り返し、制圧の正当性を主張した。しかし、前述の通りクスノキさんは負傷し、移送の翌日「左腱板不全損傷」と診断されている。
一方で入国警備官はクスノキさんが抵抗し、周囲もけがをする恐れがあったため「痛かったとしても、それはやむを得ない」と答えた。「移送することと被収容者がけがをしないことはどちらが重要か」と原告側の代理人弁護士に聞かれると、「けがをしないに越したことはないと思いますが、我々は命令がある以上は、それを実行する義務があります…
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