テラハ問題が問う芸能界の「労働者性」 夢搾取の構造はどこに
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フジテレビの人気リアリティー番組「テラスハウス」に出演し、SNS(ネット交流サービス)で誹謗(ひぼう)中傷されて亡くなったプロレスラーの木村花さん(当時22歳)の母響子さん(44)が昨年末、フジテレビと制作会社に損害賠償を求めて提訴する方針を明らかにした。響子さん側は「リアリティーショーと言いながら、制作側から花さんへのあおりや演出、炎上商法があったのではないか」と主張。弁護団は、制作側の安全配慮義務や出演契約の拘束力を争点にする構えだ。響子さんが訴訟を起こす意義と、芸能従事者らフリーランスをとりまく働き方の問題点を改めて考えたい。【宇多川はるか/デジタル報道センター】
「なかったことにされないために」
「フジテレビ社内の検証を読んでも、BPO(放送倫理・番組向上機構)の結論を聞いても、課題と向き合って再発防止に向けて改善していく姿勢が感じられませんでした。自浄作用があると受け止められたら、裁判も必要なかったのですが、やっぱり花のことをなかったことのようにされているという思いは拭えず、すごく悩んで、裁判にすることを決めました」。響子さんは、毎日新聞の取材にこう語り、「制作側は『炎上』の危険性をきちんと理解し、出演者を守る義務は、やっぱりあるのではないかと思います」と強調した。
テラスハウスは一般募集などで集まった男女6人が共同生活をするという設定の「リアリティー番組」で、動画配信サービス「Netflix」とフジテレビが配信・放送した。花さんは2019年から出演。20年3月末に配信された回で、出演者の一人が花さんのプロレスのコスチュームを誤って洗濯して使えなくなり、花さんが相手を強く非難する場面が描かれた。
この番組の配信後、SNS上で「早く消えてくれよ」「吐き気がする」など花さんへの匿名の中傷投稿が相次いだ。花さんは同年5月23日、自宅で命を絶った。直後、番組は打ち切りが決まった。
20年3月から5月にかけて、番組制作側は、花さんが中傷の悩みを抱え、リストカットに及んでいたことを把握していた。それにもかかわらず、中傷の標的となった放送の「未公開動画」を配信。さらに地上波でも放送した。その後、花さんは急死した。弁護団は一連の経緯から、出演者に対する制作側の安全配慮義務を争点にする考えだ。
曖昧な「労働者性」がもたらすもの
安全配慮義務とは、最高裁の判例で確立したり…
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